ブラックホールとは

 ブラックホールとは、重力が強すぎて光さえも脱出できない天体です。そのため真っ黒に見える、宇宙に空いた「穴ぼこ」のような存在だといわれてきました。ただし誰も実際に見たことがないので、「穴ぼこ」のようだというのも想像でした。これまでは。

 ブラックホールはアルベルト・アインシュタイン(1879-1955)の発表した相対性理論から数学的に導かれます。その方程式によると、ブラックホールの近くでは、空間が伸び、時間はゆっくりになり、その他奇妙な現象がさまざま起きます。

 ブラックホールに物体が近づきすぎると、そこから遠ざかるために光速以上の速度が必要になり、そのため脱出することができません。この後戻り不可能な境界面は「事象の地平線」「イベント・ホライズン」という大変かっこいい名前で呼ばれます。これが穴ぼこの縁に相当します。

 時間や空間がへろへろ伸びたりゆっくりになったり、後戻り不可能な境界面が生じたり、そんな奇天烈な穴ぼこが実際にこの宇宙に存在するのでしょうか。方程式の解が数学的に存在するからといって、それが現実世界に出現するとは限りません。多くの研究者が最初、ブラックホールの概念に当惑し、嫌悪し、それが現実には存在しないという根拠をなんとか探そうと努力しました。

「ブラックホールは存在するか」論争

 平成も終わるこの時代には、ブラックホールの実在を疑う人はほとんど残っていません。しかし、ブラックホール研究の歴史は「そんなふざけたものあるわけない」という否定派を、状況証拠の積み重ねで説得する歴史だったのです。

 積み重なった状況証拠としては、天の川銀河内の中小ブラックホールが物質を飲み込む際に放射されるX線や、飲み込まれる物質の一部が噴射される宇宙ジェット(筆者の博士論文のテーマです)、遠方銀河の中心にいる超巨大ブラックホールが物質を飲み込む際に放射される電波からガンマ線までの電磁波など、無数にあります。M87の宇宙ジェットもそのひとつです。

 そういうX線放射や宇宙ジェットや電磁波放射の、エネルギーや波長や性質や放射機構が、ブラックホールだとうまく説明できる、というのがブラックホール支持派の主張でした。

 最近は決定的な証拠として、中型ブラックホール同士の衝突にともなう重力波が、LIGOなどの重力波検出器によって検出されました。(重力波検出器LIGOとVirgoはこれまでブラックホール衝突を11発とらえ、その数をさらに増やすべく2019年現在も観測中です。おそらくこの連載でも新発見を紹介することになるでしょう。)