電波望遠鏡や可視光望遠鏡などが、どれほど細かく対象を観察できるかという能力は、「角度分解能」で表わされます。例えば、空に2個の天体が1°離れて浮かんでいるとき、1°の角度分解能を持つ望遠鏡ならこれが2個の天体であることを識別(分解)できますが、そうでない望遠鏡ではこれが1個のぼやっとした明りに見えます。
ここでイベント・ホライズン・テレスコープの角度分解能について解説するためには、新しい単位をいくつか紹介しなければいけません。あまりにも優れた能力を表わすには、日常使われることのない単位が必要になるのです。
1°の60分の1の角度を「1分(角)」とか「1 arcminute」といいます。「1'」とも表記します。1分角=0.017°です。ヒトの目の角度分解能は1分角程度です。
1分角のさらに60分の1を「1秒(角)」とか「1 arcsecond」といいます。「1"」とも表記します。1秒角=0.00027°です。角度分解能が1秒角の望遠鏡は、3.26光年離れたところから太陽系を観測して、太陽と地球の距離を識別できます。
1秒角の1000分の1を「1ミリ秒(角)」とか「1 milliarcsecond」といいます。「1 mas」とも表記します。1ミリ秒角=0.00000027°です。角度分解能が1ミリ秒角の望遠鏡は、3260光年離れたところから太陽と地球の距離を分解できます。
1ミリ秒角のさらに1000分の1を「1マイクロ秒角」とか「1 microarcsecond」といいます。「1 μas」とも表記します。1マイクロ秒角=0.00000000027°です。角度分解能が1マイクロ秒角の望遠鏡は、326万光年離れたところから太陽と地球の距離を分解できます。
ついでに角度分解能をお馴染みの単位「視力」で表わしておきましょう。「C」があっちを向いたりこっちを向いたりしている検査表*2で測る視力は、「分角単位で表わした角度分解能の逆数」と定義されます。1分角を見分けることができる角度分解能は視力1です。0.1分角を見分けることができれば視力10です。
*2:視力検査表の「C」は「ランドルト環」という名があります。
さてこれでイベント・ホライズン・テレスコープの超高角度分解能を表わす単位が準備できました。
電波干渉計は、各アンテナの距離が離れているほど、優れた角度分解能を(原理的には)発揮できます。イベント・ホライズン・テレスコープはハワイ島マウナケア、チリのアタカマ砂漠(アルマ望遠鏡とAPEX)などに設置された6地点8台の電波望遠鏡を組み合わせて地球サイズの電波干渉計を構成します。