超巨大ブラックホールM87*近傍の驚くべき超高角度分解能写真をもう一度御覧ください。

左:イベント・ホライズン・テレスコープで撮像したM87*。中:ブラックホール近傍のガスの相対論的流体力学を用いたシミュレーション結果。右:このシミュレーション結果をイベント・ホライズン・テレスコープで撮像した場合の予想図。 Image by the Event Horizon Telescope Collaboration[5] (CC BY 3.0)
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 3枚の図のうち、左が超巨大ブラックホールM87*近傍を撮像したものです。何が見えているのか解説しましょう。

 超巨大ブラックホールM87*には、周囲からガスが押し寄せ、風呂の栓を抜いたときのようにぐるぐる渦を巻き、吸い込まれています。この渦は「降着円盤(こうちゃくえんばん)」と呼ばれます。光速近い速度で渦を巻く、(輝度)温度60億Kを超える超高温のガスです。

 オレンジ色のドーナツはこの降着円盤から発せられた光(電波)です。ただし、降着円盤の形が直接見えているわけではありません。降着円盤から発せられた光線をブラックホールの強大な重力が曲げるため、光線はブラックホールをぐるっと迂回してやって来ます。上下左右から迂回してきた光線を全部合わせると、M87*をこのようにぐるりと取り囲んでいるように見えるのです。また、降着円盤の背後にある、あちら向きのジェットから発せられた光が重力レンズ効果で曲げられて、ドーナツに加わっているということです。

 ドーナツの穴の見かけの直径は42±3マイクロ秒角で、これは1000億kmに相当します。ただし、この穴の見かけの直径が超巨大ブラックホールのイベント・ホライズンの直径というわけではありません。

 光のドーナツは、下半分は明るく、上半分は暗く見えています。超巨大ブラックホールに落ち込む直前のガスは、光速に近い速度で超巨大ブラックホールをぐるぐると周回しているため、光のドップラー効果とドップラーブーストという現象によって、こちらに近づく部分(下半分)は明るく、こちらから遠ざかる部分(上半分)は暗く見えているのです。

 強調しますが、このようにブラックホール近傍が超高角度分解能で撮像されたのは史上初めてです。降着円盤から放射されるX線などの観測から、こういう姿は想像されてはいましたが、これまでは想像するだけだったのです。

 そしてこの穴の中心には超巨大ブラックホールがいます。 そのイベント・ホライズンの半径は、回転ブラックホールを仮定すると、3.8±0.4マイクロ秒角、すなわち約100億kmと見積もられます。ドーナツの(見かけの)穴の6分の1ほどです。太陽系と比べてみると、冥王星軌道までもすっぽり収まります。