発表[2]によれば、観測波長1.3mmの場合、その角度分解能は25マイクロ秒角、視力にして240万です。これは500km離れたところに置かれた50マイクロメートルの物体が識別・分離できる能力です。大阪に置かれた髪の毛の太さが東京から測れます。

 ただしこのように、いくつもの大陸や孤島に散らばった、仕様も特性も出力データ形式も違うアンテナを組み合わせて1台の干渉計を構成するのは、言うは易く行なうは難し、さまざまな技術的難題課題をクリアする技巧と労力が必要です。

 イベント・ホライズン・テレスコープのチームは、アンテナによっては新たな受信機を設置し、1秒に64GBitのレートで測定データを記録するシステムを開発し、水素メーザーを用いる精密な周波数標準を各アンテナに備えるなど、何年もかけてこの地球サイズのテレスコープを構築し、試験し、調整し、性能を向上させてきました。

 またこの超高角度分解能をフルに発揮するには、観測対象も選ばなくてはなりません。点状の天体をいくら超高角度分解能で観測しても点のような像しか得られません。大きく広がった天体でも、暗ければ細部は見えません。地球6地点に散らばったアンテナからは同時に見えない空の領域もあります。超高角度分解能電波干渉計の観測対象は限られるのです。

 これらの条件をクリアする天体のうち、最適なものふたつが、宇宙ジェットエンジンことM87*と、銀河系の主ことSgr A*です。この2天体はイベント・ホライズン・テレスコープの最重要ターゲットです。このうち今回発表があったのはM87*の結果です。(M87銀河全体と、中心の超巨大ブラックホールを区別する時には、後者に「*」をつけて表記します。)

ブラックホール近傍が見えた!

 2019年4月10日、イベント・ホライズン・テレスコープ・チームによる記者発表が行なわれ、2017年4月に行なわれたM87*の観測結果が公開されました。同時に科学誌『Astrophysical Journal Letters』への投稿論文もCC BY 3.0ライセンス*3で公開されました[1〜6]。レター形式の論文は普通は4ページくらいですが、17ページから52ページという破格のボリュームが一挙に6篇です。チームの意気込みが伝わってきます。(投稿から査読・受理(掲載決定)までも破格のスピードで、6篇の中には2018年3月4日投稿、3月12日受理なんてものもあります[5]。査読者も大変です。)

*3:著者を表記すれば転載可能なライセンス。大学広報や機関広報を通じていちいち画像などの使用許可を申請しなくてすむので、サイエンスライターやメディアにとっては大変ありがたい。自然と、そういうライセンスの発表を優先して記事にすることになります。