ちなみに対広島で辛酸を舐めさせられ続けた高橋由伸前監督は若手の積極起用が目立って育成面を評価する声もあったとはいえ、実際のところでは裏側で各方面から「メディアによって名付けられた『ソフト路線』という便利な表現が隠れ蓑になって裏側では指揮官らしいことをほとんど何もせず動いていなかった」と指摘されていた。真相は「仏像監督」と揶揄されたように余りにも暗過ぎるイメージが強まり、チームの成績も低迷したため高橋前監督は就任から1度もリーグVを達成出来ないまま3年で辞任へと追い込まれてしまったのだ。

 そんなGの黒歴史をすべてにおいて払拭させる救世主として原監督は球団側から3度目となる就任の命を受けたのである。

「原監督はなかなか休ませてくれない」

 早速、今年のキャンプでも原監督は持ち前の「動」の姿勢を印象付けた。昨季、首脳陣から見放されてチームの不良債権になろうとしていた2人の主力を再生させようとフェーストゥフェースの指導を試みたのだ。まずは宮崎での1次キャンプではアレックス・ゲレーロ外野手に打撃指導。巨人1年目となった助っ人の昨季は高橋前監督と意思疎通や起用法などの面で深刻な対立も芽生えてしまい、期待通りの活躍が出来なかった。しかし原監督からキャンプで「目線を保って体重移動を残す動き」について助言を受けるとゲレーロは一変。これが大きく功を奏し、実戦で本塁打を放つなど開幕へ向けて復調の兆しを見せつつある。

 さらに原監督は今年の春季キャンプ期間中、打撃不振の小林誠司捕手にも幾度かにわたって熱心にマンツーマンでアドバイスを繰り返していた。近年の小林はもともと苦手の打撃が輪をかけるように深刻なレベルにまで落ち込んでおり、それにつられてリード面も精彩を欠くようになっていた。その打開策として何とか光明が差せばと指揮官はゲキを飛ばし続けていたのである。

 口数も決して多いほうではなく生え抜きであるにもかかわらず、どこか小林にはアウトローっぽさも感じられる。そういう性格面も災いし、前政権下ではヘッドコーチらと確執が生まれて明らかに冷遇されていた。しかしながら今季はFA移籍で埼玉西武ライオンズから獲得した炭谷銀仁朗捕手の存在によってマイペース癖のある小林の尻にようやく火がつき、攻守の両面において危機感を抱くようになれば逆に深い眠りに入っていた能力がもう一度開花させられるかもしれない。どうやら原監督の頭の中はそういうシナリオを練り上げ、第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)時のような小林旋風の再来を見込んでいるフシもあるようだ。

 それだけではない。春季キャンプにおける“原効果”は随所で確かに現れている。キャンプに帯同したチーム関係者は次のように打ち明けた。

「チームは今キャンプから明らかにいい意味で変わった。早々から組まれた紅白戦や練習試合、終盤からスタートしたオープン戦も今年はリハビリ中の選手を除いた主力が軒並み出場を命じられ、基本的にマイペース調整がはく奪された。主力の中からは苦笑い気味に『由伸さんと違って原監督はなかなか休ませてくれない』という声も上がっているが、いわゆる“ユルフン”ではなく“追い込み型”の練習法はチーム内でおおむね歓迎されている。ベテランや中堅クラスも自分に甘えが生じず、常にやる気を引き起こすことにつながるからだ。

 練習時間も妙にダラダラと長いわけでもなく、ハードなメニューを濃密に消化する。一部出遅れはあるものの、メジャーリーグに近い今キャンプのスタイルによって主力選手たちの仕上がりは例年以上に早く、シーズンに好影響を及ぼす予感は漂っている。

 そしてとにかく原監督がいつも明るく、そして時に厳しく・・・と感情を表情に出してもらえる点は新たなストロングポイントとして絶対に代え難い。昨季までどこか暗い雰囲気に包まれていたチームから脱却できたのは本当に大きい」