果たして“稀勢の里ロス”を吹き飛ばせるような救世主力士は現れるのだろうか――。

 大相撲春場所が10日からエディオンアリーナ大阪で初日を迎える。人気横綱の稀勢の里が初場所で引退して以降、冬の時代への逆戻りを懸念する声も多いだけに日本人スター力士の誕生は角界にとって急務だ。ところが相変わらず好き嫌いの激しい親方衆や横綱審議委員会の面々は「出る杭を打つ」ことに余念がないようである。

貴景勝の大関昇進を阻む相撲協会「貴乃花嫌い」の体質

 その被害者筆頭は関脇貴景勝だろう。次の春場所では大関昇進がかかっている期待の力士だ。しかし、どうしても不可解な点が拭い去れない。昨年の11月の九州場所では13勝で初Vを飾り、先場所も11勝して優勝次点だった。昨年の秋場所でも小結で9勝しており、直近の3場所通算勝ち星は33勝。大関昇進の目安とされている「三役の地位のまま3場所連続で33勝以上」の条件をクリアしている。先場所は事実上の準優勝で技能賞まで手中に収めているにもかかわらず、大関昇進は見送られた。

 先場所の千秋楽では不調の大関豪栄道に何もできないまま、得意なはずの押し相撲で逆に完敗。大関昇進にNOを突きつけた親方衆からは「最後の最後が余りにも印象が悪過ぎる」との声も確かに出ていた。だが、たとえ負けようが3場所33勝の数字は揺るがない。大関昇進のラインが明確に決められていないことをいいことに、何だか取って付けたような理由でダメ出しをしているようにしか思えなかった。

 ある古参の親方は「誰とは言わないが、これまで大関に上がってから急に“守り”に入ってしまう力士もいたので大甘な昇進だけはさせたくなかった」と言いながらも直後、やや口ごもりながら次のように真相を打ち明けた。

「やはりどうしても貴景勝の師匠・元貴乃花親方の存在がネックだということ。貴景勝が脚光を浴びると、どうしても『貴乃花親方の指導のおかげ』という見方が世の中に広まる。協会としてもこの流れは断固として作りたくはないのだ。このまま貴景勝がスンナリと大関に昇進するよりも、少し時間が経ってから貴乃花騒動のほとぼりが完全に冷めた頃のほうが正直に言って有り難い。そう思っている親方衆は少なくないだろう」

 貴乃花部屋の消滅ともに千賀ノ浦部屋へ転属となった貴景勝にとっては、さぞかし心外な話に違いない。しかし今の角界において派閥や面子争いの行方は、残念ながら各力士たちが生き抜いていく上での大きなキーポイントとなっている。それは否めない事実だ。