次に後藤氏は、国の知的生産力のピークが、物的生産力のピークより遅れてやってくることを指摘している(図2)。後世に残るような知財は、経済的余裕があってはじめて生まれるというのがその根拠である。
(出所:後藤尚久『アイデアはいかに生まれるか』講談社)
イギリスやアメリカの事例
例えば、1815年に世界最大の債権国となったイギリスは、フランスのナポレオンに「小売商人の国」と軽蔑されたという。欧州大陸に蓄積された紡績技術などの知財を利用して安価な綿織物を生産し、これを輸出して富を稼いでいたからだという。ところが、19世紀後半になるとイギリスに、ダーウィンの進化論やマクスウェルの電磁気学など独創的な知財が生まれている。
また、第1次大戦中に世界最大の債権国になったアメリカは、「欧州で生まれた自動車で金儲けをしている」「ノーベル賞とは無縁の国」と欧州から非難されていたという。筆者にとって、アメリカはトランジスタや集積回路を発明した独創的な国であって、このような時期があったとは知らなかった。つまり、アメリカも同じパターンに当てはまるのだ。
日本はいつまでノーベル賞受賞者を輩出できるか
我が日本はどうか。筆者が高校生から大学生だったころ、つまり日本が経済大国となった1980年初旬に、「日本人は独創的でない」「アメリカで生まれた発明にタダ乗りして金儲けばかりしている」という非難を散々聞かされていたような記憶がある。