問題は、経済大国となった後に、日本の知的生産力が向上しているのかどうかということだ。そこで、1人当たり名目GDP(国内総生産)を経済力の指標とし、その推移と日本のノーベル賞受賞者の関係をグラフにしてみた(図3)。

図3 1人あたりの名目GDPの推移と日本人ノーベル賞受賞者
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 まず、右肩上がりに増大してきた1人当たり名目GDPは、1991年のバブル崩壊後、明らかにその傾きが鈍っている。2010年以降、再び増加に転じているようにも見えるが、戦後の高度経済成長時代とは比べものにならないだろう。つまり、バブル崩壊近辺が、日本の物的生産力のピークだったと言えるのではないか。

 次に、日本人のノーベル賞受賞者は、21世紀に入った頃から明らかに急増している。やはり、日本も、かつてのイギリスやアメリカと同じパターンに当てはまると言える。したがって、「日本人は独創的でない」などということは無い(たぶん)。

 しかし、後藤氏が指摘した通り、日本に経済的余裕のある期間は、イギリスやアメリカよりも短い可能性が高い。国の借金は1000兆円を超え、世界GDP第2位の座は中国に奪われた。

 例のパターンに日本も当てはまっているとはいえ、独創性を発揮できる期間は短いかもしれない。もしかしたら、今が日本の知的生産力のピークかもしれないのだ。とすれば、手を拱(こまぬ)いていると、「ほぼ毎年1人のペース」でノーベル賞受賞者を輩出できなくなる時期が、早晩やってくることになる。

 本庶教授はNHKニュースのインタビューで、「基礎研究は地味だ」と言っていた。しかし、今こそ日本は、地味な基礎研究にリソースを投入する必要があるのではないか。それが、先進国としての日本の使命であると思うからだ。その結果として、「ほぼ毎年1人のペース」でノーベル賞受賞者が今後も出現すればいいと思う。