「休む」=仕事の「インプット」という考え方

 アトラエの「サバティカル休暇」は、3年以上勤続した社員が3年ごとに一度、法定の有給休暇とは別に、1カ月の有給休暇がとれる制度だ。同社では3年にちなんで「サバティカル3」と呼ぶ。

 利用用途を資格取得や海外留学などの自己研さんに限定しない一方で「誇れる使い方」を条件としていることが、ユニークと言える。「誇れる」とは、日本人が休みに対して抱きがちな「罪悪感」とは、真逆の概念だからだ。それはどのような使い方だろうか。

アトラエ広報の南香菜絵(みなみ・かなえ)氏。

 同社広報・南香菜絵氏は、「休んだ本人が有意義な使い方ができたと納得でき、自分が休んでいる間に働いている仲間に対して『後ろめたさ』を感じない使い方です。できれば、長期旅行やボランティア活動といった、普段できない人生を豊かにする体験をしてほしいです」と説明する。

 その趣旨は、「休んだことによってこれからもっと意欲的に働ける、と胸を張って職場に帰ってきてほしい」(南氏)ということで、社員が有意義に過ごす休暇は、ひいては仕事にとってプラスになるという考え方が背景にあるという。それは、「サバティカル休暇」制度導入を後押ししたあるエピソードにも関係する。

 そのエピソードとは、入社10年目の男性社員が、有給休暇約20日を連続消化申請したことだった。子供の受験フォローに集中するために1カ月間休みたいとの申し出に、「自由な社風の当社ですが、そのときはさすがに驚いた社員も多かったように思います」と、南氏は当時を振り返る。第一線で働く社員が、「やむを得ず」と誰もが納得するような理由ではなく、1カ月間も休む宣言をしたらムリもないだろう。

 しかしそれに対し、その社員は次のような主張をしたのだった。「自分はアトラエの社員であると同時に、家に帰れば、父親です。週末は町内会のメンバーとして活動もしています。社員以外の役割を果たしている時に得られる『インプット』があるからこそ、アウトプットとしてアトラエの『サービス』が考えられるのです」。

 人々のニーズに寄り添い多様化するサービスの「インプット」は、日常生活の中からこそ得られるものもあり、それはなにも資格取得や海外留学といった従来型の自己研さんに限らない、というわけだ。この社員の主張に、新居佳英代表が共感し、申請通りに休暇取得を承認。同時に、もともと感じていた長期休暇制度の必要性を改めて実感し、その後の「サバティカル3」導入へとつながったのである。