シャープが東芝のパソコン事業を40億円で買収することになった。
シャープも東芝も、会社存亡の危機に瀕していた。しかし、シャープは完全復活し、一方の東芝はまだ危機から立ち直れていない。その立場の違いを象徴する出来事が、今回のシャープによる東芝パソコン事業の買収だ。
このような差はなぜ生まれたのか?
大きな要因の1つに、危機に陥った時に他社との提携をどのように行うか、の経営判断の違いがあった。国際派、つまりグローバル提携か、国内派、つまり日本連合かの選択である。
もっと具体的に言えば、「官民出資の投資ファンド」と言いながら実質的に経済産業省が監督する「産業革新機構」とどう付きあったか、の違いだ。
「技術流出防止」が東芝の足かせに
2016年2月初め、危機的状況にあったシャープは、出資を争った2社のうち、「技術流出防止」を目的とする産業革新機構を蹴って、「グローバル競争」に展望が持てる台湾の鴻海精密工業を選んだ。
対する東芝は、2016年10月に米国の子会社であるウエスチングハウス社の7000億円の赤字が表面化。その損失の穴埋めのため、儲け頭であった半導体メモリ事業を売却することを余儀なくされた。
紆余曲折の末、売却先に選んだのが、米国ウエスタンデジタル(WD)、米国投資ファンドのベインキャピタル、韓国のSKハイニックスなどが出資する受け皿会社だ。そしてそこには「技術流失防止」を目的とし産業革新機構と日本政策投資銀行も一枚噛んでいる。
このスキームには、「技術流出防止」のためにさまざまな仕掛けがなされている。SKハイニックスの議決権を10年間制限する、東芝とHOYAで51%の株式を持つ、産業革新機構と日本政策投資銀行は「指図権」を16.7%ずつ持つ――。ちなみに「指図権」とは、将来的に出資するとして、東芝が持つ議決権の一部を間接的に行使できる権利である。
このように、幾重もの複雑な仕組みを駆使し、技術流出を阻止しようとしている。
しかし、SKハイニックスは将来的には議決権を有するので「技術流出」のリスクは皆無ではない。またベインキャピタルはあくまで投資ファンドであり、3年後の新規株式公開を目指す方針を持っている。そのため短期的な利益確保に傾くリスクもある。「技術流出防止」にこだわったおかげで、売却のタイミングは遅れ、今後の経営判断にも多くの利害関係者の意向を無視できなくなる体制となってしまった。