高精細の8Kテレビは、大画面であればあるほどデジタルハイビジョンや4Kに対する画質の良さが際立つ。
鴻海が総額約1兆円を投じる10.5世代と呼ばれる大型液晶パネル工場が、2019年度には稼働する。8Kテレビを中国で生産し、コストダウンにより、中国市場を開拓しようとしているのだ。
アップルの逆張りで成功したシャープ
シャープは、スマホ市場でも、従来の課題を解決し積極攻勢に出ている。
2010年代になって、中国のスマホ市場が急拡大した。シャープはここで勝負に出た。シャープは復活を賭けて中国のスマホメーカー「小米科技(シャオミ)」に営業をかけ受注に成功、2014年3月期には3期ぶりに黒字を計上した。
この黒字を叩き出せたのは、シャオミが、同社のスマホ用液晶の約60%をシャープに大量発注したからである。
シャオミは、2010年に初の製品を投入してからわずか4年間で世界シェア3位に躍り出た「勝ち組」だ。シャープがシャオミから大量受注できたのは、液晶技術とブランド力、そしてなによりシャオミとの「すり合わせ」によるスマホ生産が可能だったからだ。顧客の要求に合わせて特注品を作る能力に秀でていたのである。
ところが、期待していたシャオミからの受注は長く続かなかった。シャープとシャオミの間で、タッチパネル等を組み立てる台湾企業が経営破綻したことがきっかけだった。
転じて国内市場を見れば、売り込み先はスマホメーカーでなくNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクといった通信キャリアだ。シャープは、これらの企業と「すり合わせ」で特注品を生産していた。
スマホメーカーやキャリアとの「すり合わせ」による特注品の生産は、多くの特注機種を開発・生産しなければならない上、彼らの販売状況に大きく業績が左右されるという課題があった。
この課題を解決するため、シャープは主導権を取りにいった。図2に示すように、2017年に大胆な機種整理を行い、国内のキャリアに同一機種、同一ブランドで供給することを決めたのだ。
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機種整理は、リスクの大きい戦略だ。顧客からの支持が必要条件で、支持が得られなければ失敗する。
結果はどう出たか。
シャープは、独自の低消費電力技術「IGZO-TFT」を用いて、ハイエンドモデルの「アクオスR」と、低価格モデルの「アクオスセンス」の2機種に整理したのだが、「アクオスセンス」が人気を呼び、国内メーカーでは珍しいSIMフリーモデル「ライト」も用意することになった。「アクオスセンス」は、3万円前後の価格帯ながら防水とオサイフケータイの機能が消費者に支持された。「有機ELを用いて高値でiPhone Xを売る」というアップルとは逆の戦略だったが、これが奏功したのだった。
その結果、2017年度のシャープのスマホを含めた携帯電話端末の国内出荷台数は、前年比4割増しと大きく躍進、ソニーを上回り国内2位に浮上した。
さらに、2018年夏モデルとして、「アクオスR2」を投入する。「静止画用」と「動画用」2つのカメラを搭載しているのが大きな特徴だ。動画の撮影中に、静止画用カメラで静止画を撮ることも可能になる。SNSユーザーをターゲットとした機能だ。
アップルへの挑戦状でもある。シャープおよび鴻海は、顧客に左右されない、顧客依存度を低下させるビジネスモデルへの転換を目指している。「アクオスR2」の戦略が、グローバルに展開されるか注目される。
シャープは「経費削減」の次の段階へ
鴻海グループの副総裁も兼ねる戴正呉氏は2016年8月に社長に就任してから、まずはスピード経営と「経費削減」によって経営を立て直してきた。「経費削減」が最も早く効果が出るからである。
しかし、シャープは「経費削減」を主な戦略とする時期はもう過ぎた。液晶テレビ、スマホ事業で積極的戦略に転換し成果が出ている。さらに今度はパソコン事業にも打って出る。
鴻海の支援が決まった直後から私が予測していた、「国際垂直分業」と「共創」による価値創造が実を結んだ結果と言える。
シャープは、2018年6月20日に、堺市の本社で株主総会を行う。戴社長の見解表明が注目される。