一方のシャープは、鴻海による買収後、不死鳥のように復活した。2018年3月期の連結決算では、売上高が前年比18%増の2兆4272億円、営業利益が44%増の901億円で、6年ぶりの復配も達成した。

 こんな劇的な復活がなぜ可能だったのか。

 その答えを探るべく、シャープが危機的状況にあった当時、買収に手を挙げた鴻海と産業革新機構が提示した支援案を整理してみた(図1)。

図1 シャープに対する産業革新機構と鴻海の支援案
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 鴻海と産業革新機構のスキームを比較してみると、最も重要な点は、「成長戦略」である。

 産業革新機構の案では、シャープの液晶部門とジャパンディスプレイ(JDI)を統合するという案であった。JDIとは、その設立当初、産業革新機構が70%出資して、東芝、ソニー、日立の液晶部門を統合した企業である。同種企業の「日の丸液晶連合」であり、規模を大きくすることによりコストを抑えるという「規模の経済」が中心で、成長戦略については不透明だった。

 これに対して、鴻海の支援案では、鴻海とシャープが同業ではなく補完関係にあることが明確になっている。ひと言で言うと、シャープは研究・開発に強く、鴻海は生産・販売に強い。このため、両社の強みを生かした「国際垂直分業」によりグローバル競争に展望を持てる。さらに、単なる分業だけでなく、お互いの長所を生かし共同で価値創造する「共創」が期待できる。

 今回シャープが東芝のパソコン事業を買収した理由は、シャープと鴻海の「国際垂直分業」と「共創」により、パソコン市場のグローバル競争でも十分な勝算があると判断したからに他ならない。

各段に上がったシャープのコスト競争力

 かつてシャープは、「メビウス」ブランドでパソコン事業を展開していたが、2010年に撤退している。この時はグローバル企業とのコスト競争に勝てなかったからだ。

 今回、東芝のパソコン事業を買収し再参入するわけだが、東芝本体が持つ中国・杭州のパソコン工場や欧米等の関連事業も継承することになる。

 シャープは今でもパソコンの開発技術を有している。さらに鴻海は、今や「世界のサーバの過半が鴻海製」と言われるほどの規模のメリットを生かし、安価に部材を調達することもできる。また、委託先からのコストダウンの要求に応じることで発展させてきた生産技術に強みを持つので、東芝から引き継ぐ杭州のパソコン工場の管理もお手の物だろう。

 つまり、かつてシャープが経験したようなコスト競争での敗北は考えにくい。

 また単なる「国際垂直分業」だけでなく、互いの長所を生かし共同で価値創造する「共創」も期待できそうだ。