「カラダによい水」は薬にも毒にもならない

謎多き「機能水」の正体(前篇)

2015.10.16(Fri)漆原 次郎

平岡 被験者が酸化ストレスの亢進していない健常者であったという理由はありえます。また、有効成分の濃度の問題や、それが作用すべき体の部位まで到達しなかったか、到達しても働かなかったということもあるでしょう。試験管内の試験と、生体内の試験で結果が異なるのはよくあることです。抗酸化作用の強いポリフェノールやビタミンCなどでも、体に摂り入れたところですべてが体内に吸収されるとは限りませんからね。

ナノクラスター水はナノクラスターになっていない

――もう1つの、水分子のクラスターサイズが小さいことで生体組織への吸収率が高いとする水を対象とする試験についてもお聞きします。インターネットでも、水のクラスターサイズを小さくした「ナノクラスター水」などという製品名をよく見ます。まず、「クラスター」というのはなんなのでしょうか?

平岡 クラスターは分子の集団のことです。例えば、水(H2O)分子は数個から数十個のクラスターを形成しています。これは、水分子中で正に帯電した水素原子と、その近くの他の水分子中で負に帯電した酸素原子が互いを引き寄せる作用によって起きる現象です。

 1気圧では、水が沸騰する温度は100℃、氷に凝固する温度は0℃ですが、もし仮に、水の分子がクラスターを形成していないとなると、沸騰点は-80℃に、凝固点は-110℃にまで下がってしまうはずです。

――そのクラスターサイズが小さく生体組織への吸収率が高いと宣伝される水については、どんな試験をしたのですか?

平岡 クラスターサイズを小さくしたとする4社6製品の市販水について、沸騰点と凝固点を調べました。クラスターサイズが小さくなっていれば、沸騰点と凝固点は下がるはずです。

――結果はどうでしたか?

平岡 水道水などと変わらず、どれもほぼ沸騰点は100℃、凝固点は0℃でした。つまり、水分子のクラスターが小さくなっていないということです。

――クラスターが小さくなっているかいないかは、沸点と凝固点を調べれば分かるとのこと。それなのに、なぜ「ナノクラスター水」を売るメーカーは、「クラスターが小さくなっている」と宣伝しつづけるのでしょうか?

平岡 かつて、酸素の核磁気共鳴(17O-NMR)スペクトルというデータを見ることにより、水分子のクラスターサイズを直接計測できるのではないかという話があったのです。ある研究者が、その方法でいくつかの水溶液系のクラスターサイズを計測したところ、クラスターサイズが小さいほうが水の味がよいことが示されたと主張しました。

 しかし、他の研究者が追試をした結果、結局その方法では計測できないということになったのです。それにもかかわらず、近年の健康ブームの中で、メーカーは「計測できる」とする最初の論文を根拠に、クラスターサイズを小さくすることができたとして、「ナノクラスター水」を販売するようになったわけです。

――仮に、水のクラスターサイズを本当に小さくすることができたら、その水はメーカーが宣伝するように、「生体組織への吸収率が高いため健康によい」のでしょうか?

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