今回は、身近な食材「ゴマ」の歴史と科学を前後篇で追っている。
前篇では、日本人がゴマとどう接してきたか、その変遷を見てきた。食材に、燃料に、そして薬にと、日本人はゴマにさまざまな役割をもたせてきた。とりわけ薬としてのゴマは、江戸時代の由緒ある本草書にも五臓、血脈、腸をよくするなどと効能が謳われ、さながら“万能薬”の扱いを受けていたようだ。
それから時は経ち、科学の発展した現代、「ゴマには科学的に健康効果がある」ということがいえるようになってきた。
その最たるものとして、いま世間で知られているのは「セサミン」だろう。サントリーが1993年に発売した栄養補助食品で、「1粒にゴマ約1000粒分」「若々しい毎日に役立つ可能性がある」などと宣伝されている。特許が切れたいまは、ほかの企業も同様の商品名で発売している。
だが、「ゴマで健康といえばセサミン」で片づけてしまうのはもったいない、と思わせるような研究成果が日本の大学から上がっているのをご存知だろうか。後篇の今回は、健康効果をもつゴマの成分を発見・解明している三重大学大学院生物資源学研究科准教授の勝崎裕隆氏に「セサミンだけではないゴマの健康成分」について話を聞いた。
腸内細菌の活躍で抗酸化作用を示す物質を発見
ゴマの健康効果に科学的な視点が注がれたのは1980年代だ。その出発点は「なぜ、ゴマ油は酸化しにくいのか」という疑問にあった。
当初、ゴマの酸化を防いでいるのは、ゴマ油に入っている「セサモール」という物質だと考えられていた。だが、分量的にセサモールだけではどうもつじつまが合わない。そこで、研究者たちは抗酸化作用をもたらす他のゴマ成分を探した。
すると、ゴマには「ゴマリグナン」と総称される化合物が多く含まれていて、抗酸化作用をもっていることが分かってきた。よく知られるセサミンも、こうした研究の流れで見つかったゴマリグナンの1つである。
だが、さらに、ゴマの抗酸化作用は「ゴマリグナン」の類だけではないとする見方が出てきた。
勝崎氏は名古屋大学の学生だった1993年に、ゴマリグナン以外にも、ゴマに多く含まれる成分が抗酸化作用を持つのではないかと考えた。
「というのも、ゴマリグナンをほとんど含まない、ゴマのかすの部分を動物に食べさせても、抗酸化作用の傾向が見られたのです。かすの中に、ゴマリグナン以外の何かが含まれているはずだと思ったのです」