2008年北京オリンピックの聖火リレーが行われた長野県で、チベットへの弾圧などに抗議するデモ隊になだれ込んだ中国人留学生(2008年4月26日、写真:アフロスポーツ)

『近代中国は日本人がつくった』という黄文雄氏の本がある。

 日清戦争で敗れた後の中国は、国家の建て直しで明治維新に成功した日本を見習うことにした。そのために多くの中国人を日本に留学させ、国家再建の中心に据えたというものである。

 日本が国家を意識し始めた飛鳥時代から奈良・平安時代初期にかけて、律令制度を導入するために中国に遣隋使や遣唐使を派遣して多くの留学生を送り出したのと逆の現象である。

 ついでに言えば、明治維新後の日本は西洋文明を吸収するために日本人を送り出し、また欧米から教授などを招聘した。

 どちらも自国の発展に必要として自国が自主的に行なった行動である。

 今日、日本が多くの留学生を受け入れているのは、留学生を送り出している国の発展を助けるという目的もあるが、「日本を世界に開かれた国とし、アジアならびに世界と日本の間のヒト・モノ・カネ・情報の流れを拡大する」という国内事情も大きい。

 すなわち、留学生を送り出している当該国が自国の発展のために熱望して送り出しているのではなく、日本の都合から外国に働きかけて受け入れているわけである。

 かつての留学生の成功物語とは全く異なる。

外国人留学生30万人計画

 親中派と目された福田康夫首相(当時)が2008年1月の施政方針演説で「留学生30万人」を受け入れる方針を発表し、2020年までに実現を目指すとした。

 日本学生支援機構(JASSO)は2019年5月1日付の「外国人留学生在籍状況調査」で31万2214人となり、前倒しで目標が達成されたとしている。

 2021年3月号ウエブマガジン『留学交流』に「留学生30万人計画の達成とその実情を探る――留学生の入学経路と卒業後進路に関する一考察」という論文が掲載された。

 一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程の二子石優氏の論文で、2004年から2019年の間を4区分して修士・大学生・専修学校(専門課程)に入学する直前の在籍機関(海外、国内の大学・大学院、日本語教育機関・準備教育課程、専修学校専門課程などに区分)を比較している。

 また修士・専門職大学院修了者の進路状況では2007年度、12年度、18年度について国内で就職・進学・帰国に区分して比較している。

 入学経路では、大学生は日本語教育機関修了者が多く、ついで海外からの入学者となっており、修士は日本の大学と海外から来る人が半々くらいである。

 卒業後の進路では、修士・博士修了者の3~4割は帰国するが、それ以外の学生の大半は日本で就職や進学などしている。

 掲題から予測されることではあるが、惜しむらくは国別検討が全くされていないことである。

 言語社会研究科在籍の院生であり、「実情を探る」ということでもあるから、漢語圏や近隣がどのように(有利に)働いているかの視点から国別比較を是非とも入れてほしかった。

 2011年の東日本大震災直後には中国・韓国人留学生が帰国して急減した結果、非漢語圏のベトナムやネパールなどから学生募集を強化した。

 その後は30万人達成のために、日本語学校を経由しない各種施策や留学者の入管手続き緩和も行われた。

 また一時は経営難に陥った日本語学校や専修学校も急増して前倒しの達成に寄与した。