開票現場の都合で歪められる一票の重み

 公職選挙法第四六条第一項では、有権者は投票所において投票用紙に当該選挙の候補者一人の氏名を自書し、これを投票箱に入れることが定められている。

(投票の記載事項及び投函かん)
第四十六条 衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙の投票については、選挙人は、投票所において、投票用紙に当該選挙の公職の候補者一人の氏名を自書して、これを投票箱に入れなければならない。
2 衆議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については、選挙人は、投票所において、投票用紙に一の衆議院名簿届出政党等(第八十六条の二第一項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。以下同じ。)の同項の届出に係る名称又は略称を自書して、これを投票箱に入れなければならない。
3 参議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については、選挙人は、投票所において、投票用紙に公職の候補者たる参議院名簿登載者(第八十六条の三第一項の参議院名簿登載者をいう。以下この章から第八章までにおいて同じ。)一人の氏名を自書して、これを投票箱に入れなければならない。ただし、公職の候補者たる参議院名簿登載者の氏名を自書することに代えて、一の参議院名簿届出政党等(同項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。以下同じ。)の同項の届出に係る名称又は略称を自書することができる。
4 投票用紙には、選挙人の氏名を記載してはならない。
公職選挙法第四十六条より引用)

 また、同法施行令においても、投票を行わない場合は交付された投票用紙を返還すべき旨が示されている。

(投票用紙の投入)
第三十七条 法第四十八条第一項に規定する代理投票の場合を除く外、投票用紙は、投票管理者及び投票立会人の面前において、選挙人が自ら投票箱に入れなければならない。

(投票用紙の返付)
第四十二条 投票をする前に自ら投票所外に退出し、又は法第六十条の規定によつて退出を命ぜられた選挙人は、投票用紙を投票管理者に返さなければならない。
公職選挙法施行令より引用)

 つまり、投票用紙を投票所の外へ持ち出すことは法令で禁じられている。

 これは投票用紙の不正な複製や第三者への譲渡、票の買収といった不正行為の温床になることを防ぐための措置と考えられる。しかし現実の選挙現場においては、誤って、あるいは意図的に投票用紙を持ち帰ってしまう有権者が一定数存在し、結果として投票者数と実際の票数との間にズレが生じることは珍しいことではないとされている。

 このような事態は全国の選挙管理委員会において日常的に発生し得るものであり、その対応の正確性が選挙管理の質を左右すると言える。

 本来であれば、このような不一致が生じた場合、その原因を究明し、実際の集計結果をありのままに報告した上で、紛失や持ち帰りがあった旨を記録として残すのが適切な手続きであろう。

 しかし、現場の担当者には、開票作業をいかに早く、かつ正確に終わらせるかというプレッシャーが重くのしかかっていることが推測される。

 特に近年は、メディアなどから開票速報の迅速化が求められる一方で、深夜から未明に及ぶ長時間作業による職員の疲労も問題視されている。そのため、わずかな票数の不一致を解明するために多大な時間と労力を費やすことは、現場にとってどうしても忌避すべき事案として認識されてしまいがちである。

 さらに、余計な揉め事は避けたいという心理や、ヒューリスティックなエラー、すなわち経験則に基づく無意識の思い込みや短絡的な判断ミスが重なり、不正な辻褄合わせへの心理的なハードルを下げてしまった可能性は否定できない。

 開票作業が長引けば、従事する職員の時間外労働が増加し、自治体の財政負担にもつながるため、担当者は無言の圧力に晒されている状況も考えられる。

 さらに、白票は誰にも投票しておらず、選挙結果に影響しないという性質上、それを水増ししても各候補者の得票数に直接影響を与えないという安易な判断が働きやすいことも背景にあると推測される。

 しかし、いかに業務効率や迅速性が求められようとも、一票の重みを人為的に操作し、架空の票を計上して帳尻を合わせるという行為は、許容されるべきものではないと言える。選挙の公正性を担保する手続きが、現場の都合によって歪められることは、民主主義の根底を揺るがす行為になり得るからである。