出会いの一撃、秀長に衝撃を与えた織田信長

 秀長が幼少期を過ごしたのは、番組テロップであったように「尾張国中村」。秀長が物心ついた頃には、3歳年上の兄・秀吉は家に寄りつかなくなっていたようだ。

 秀吉は8歳のときに父を亡くすと、光明寺へと修行に出されるもいたずらがひどくて追い出され、放浪生活へ。戦国大名に自分を売り込もうと、今川義元の家臣である松下之綱に仕えたが、そこもやはりすぐに飛び出してしまったようだ。

 なかなか腰が定まらなかった秀吉だったが、地元のつながりで、信長の家臣になると、今回ばかりは状況に適応できたようだ。細やかな気配りを見せて、信長のもとで頭角を現すことになる。

 ドラマでは、自分が家を空けてからどんなふうに過ごしてきたかを、秀吉がこう説明している。

「村を出てしばらくは、今川のご家来、松下加兵衛殿のところに身を寄せていてのう。そこでさまざまなことを学び、あの駿河の大大名、今川義元様より直々に家来になってほしいとせがまれたが、やはりわしは尾張の人間。故郷のために尽くすのが筋と、皆に引き止められ後ろ髪引かれる思いも断ち切って、織田様に仕えることに決めたのだ」

 秀吉が話を始める前から、姉のともが「どうせあることないこと並べたホラ話でしょ」と言っているのが面白い。史実においても「秀吉」という名が文献に記されるのは、28歳以降のこと。それまでの秀吉の半生は、さまざまな説が入り乱れており、実像が定かではない。ドラマでは、秀吉に半生を語らせることで「あくまでも本人が語っている話」としている点が巧みである。

 弟の秀長も後世の私たちと同様に「秀吉については何が本当か分からない」と話半分に聞きながらも、その人柄と軽妙な語り口に、いつの間にか引き込まれていくことになりそうだ。

 今後、見せ場の一つとなるのが、秀長が武士になる決断をどのように下すか、ということだろう。今回の放送では、秀吉が突然帰宅したのは、秀長を自分の家臣にするためだったということが明らかになる。

 だが、秀吉が再三にわたって「お前も一緒に清洲に来い!」と誘うも秀長は拒否。『武功夜話』によると、秀吉は秀長をこう口説いたといわれている。

「乱世にあって名を後世に伝えようと思っても、頼みとする者がいなくては心細い。どうか鋤(すき)を捨てて、わしに力を貸してほしい」

 もっともこのエピソードが載る『武功夜話』はかなり脚色が多く、このセリフも出来過ぎているため、おそらくフィクションだろう。それでも秀吉が秀長をスカウトしたことは状況的に間違いない。

 ドラマでの秀長は、兄の秀吉の言葉だけでは、心を動かされることはなさそうだ。そこでキーパーソンとなるのが、小栗旬演じる織田信長である。

 今回のドラマでは、工事を引き受けた秀長が、信長と出会うシーンが描かれた。信長は農民に扮装しており、秀長は正体を知らずに「信長は噂どおりのおおうつけじゃな」と作業をしながら軽口を叩き、信長から「無駄口叩く暇があったら働け。成すべきことを成さず、偉そうに他人のことをつべこべ言うな」とぶん殴られてしまう。

 後にその正体が信長だったことを知り、驚愕する秀長。それに対して信長は秀長に、工事を見事に仕切ったことについて「昨夜の差配、見事だった。お前がいなければ、あの道はできあがっていなかっただろう。礼を言う」という言葉をかけている。

 秀長が武士へと転身する際に、秀吉だけではなく、信長から何らかの働きかけを受ける可能性も高そうだ。信長が「本能寺の変」で倒れるまで、豊臣兄弟に加えて、信長が物語の中心となることだろう。

 ちなみに、信長は実際にも工事現場が好きだったらしい。普請(築造)現場にたびたび顔を出したことが、当時の文献から伝わってくる。

 明らかにフィクションだと視聴者が分かるシーンも、さりげなく史実に立脚しているあたりは昨年の大河『べらぼう』に通じるものがある。本コーナーで解説しがいのある大河となりそうだ。