能登の仮復旧路で実感した「足回りの懐の深さ」と「安心感」

 ロードテスト車のUltra B5 AWDはエンジン横置きのFWD(前輪駆動)をベースにフルタイムAWD(4輪駆動)化したもの。サスペンションは前ダブルウィッシュボーン、後マルチリンクと、プレミアムD-SUVとして十分な容量のものが与えられている。

 前述したようにサスペンションチューンは尖った部分を徹底排除したマイルドなもの。東京を出発後、中央自動車道で長野の松本に至り、そこから飛騨高山~神岡と経て富山に達するアルペンコースを取った。ハイウェイクルーズは優秀な運転支援装置のアシストもあって、きわめて安定感の高いものだった。

 高速を降り、国道158号線で上高地、安房トンネル経由、高山までの区間はワインディングロードで、90度以上の回り込みや半径の小さいS字などさまざまなカーブが出現する。XC60はそこをさしたるドラマもなしに、終始ゆるゆるとした動きで通過するというフィールだった。

 ドラマがないからといって、プレジャーに欠けるということはない。カーブに少々高めのスピードで進入しても前のアウト側のサスペンションが沈み、後ろのタイヤに遠心力がかかり……というコーナリングのプロセスがとてもゆっくり起こるように感じられる。緊張がない分、夜間走行時も先の路面の具合はどうか、路肩の茂みに鹿が隠れていないか等々、自然と外部により多くの注意が向かう。この安心感がXC60のプレジャーだ。

 能登半島の「のと里山海道」は地震による寸断から仮復旧していたものの、通常のコンディションにはほど遠い状況だった。見通しの良い区間を地元のクルマが妙に低速で走っているなと思うと、その先に1m近くも落ち込むような急坂があったりする。

 そこを夜間に反対方向に走ると、同じところが先の直角コーナーをまったく見通せない急勾配として迫ってくるのだ。今の復興のスピード感では、元通りにするのに5年、下手をすればそれ以上かかるだろう。

 筆者はさまざまなクルマの長距離ロードテストを行っているが、普段はこんな厳しいコンディションに出くわすことはまずない。SUVの長いサスペンションストローク(車輪の上下動の幅)をたっぷりと使うXC60のセッティングは思わぬ大きな不整箇所があってもタイヤが路面をつかみ続けた。地震後の実情をこの目で見てみようという動機で選んだルートであったが、クルマがXC60で本当に良かったと思った次第だった。

能登半島北岸の仮設道路を行く。ボンネットの見切りが良く、狭い道でも取り回しは意外に楽だった(筆者撮影)

 そんなシャシーチューニングなので乗り心地は全般的に良好。車体がひょこひょこと小刻みに揺れるのではなくゆったりと動くため、揺れに抵抗しようと体をこわばらせることもない。それが良い方に作用してか、ドライブを通じて疲労感はとても小さかった。

 ちなみにロードテスト車にはメーカーオプションの電子制御式可変エアサスペンションが装備されていた。炭素繊維複合材の固定レートスプリングの通常仕様が同じような特性を持っているかどうか。おそらく方向性は同じだと思うが、実態は不明である。