官民全方位で進む「囲い込み」
一連の発表を俯瞰(ふかん)すると、AWSの戦略は「全方位での囲い込み」にあることが分かる。
11月下旬には、米政府機関向けのAIインフラ拡張に最大500億ドル(約7兆8000億円)を投じると発表したばかりだ。
国家安全保障に関わる機密情報の処理基盤を物理的に押さえつつ、今回のre:Inventでは、民間企業向けにコストパフォーマンスの高いチップと、業務を代替するエージェントを提示した。
つまり、①インフラ(データセンター・電力)、②ハードウエア(Trainium)、③基盤モデル(Nova)、そして④アプリケーション(エージェント)まで、AIを利用するために必要なすべてのレイヤーを自社技術で埋め尽くそうとしているのだ。
「ツール提供者」からの脱皮 立ちはだかる「信頼」と「慣習」の壁
AWSの「フルスタック戦略」は、ユーザー企業にとってはコスト削減や利便性向上という恩恵をもたらすが、同時にAWSエコシステム(経済圏)へのロックイン(固定化)を強めることにもなる。
課題は、今回発表された「自律型エージェント」が、実際のビジネス現場でどこまで信頼を得られるかだ。
AIが勝手にコードを書き換えたり、システム設定を変更したりすることには、予期せぬ不具合やセキュリティーリスクへの懸念がつきまとう。
ガーマンCEOも認める通り、企業がAIに「主導権」を渡すには、心理的・技術的なハードルを越える必要がある。
また、エヌビディアの牙城を崩せるかも未知数だ。
エヌビディアはAI開発のエコシステムを掌握しており、AWSの独自チップがいかに高性能でも、開発者が慣れ親しんだ環境からの移行は容易ではない。
2025年のre:Inventは、AWSが「AIツールのプロバイダー」から「AIそのものを提供するプレーヤー」へと脱皮を図った転換点として記憶されるだろう。
はたして、インフラの覇者が仕掛けたこの賭けは、2026年以降のAI勢力図をどう塗り替えるのだろうか。
(参考・関連記事)「アマゾン、米政府AIに最大7.8兆円投資 「国家安全保障」の計算資源を囲い込み | JBpress (ジェイビープレス)」