欧州諸国の有権者も、自分たちの送った支援金が賄賂に使われているとなると、支援に消極的になるだろうし、停戦交渉についても、ウクライナに無条件で同意することにはならないであろう。
ウクライナは戒厳令下にあるために大統領選挙ができないが、プーチンは「ロシアでは大統領選挙が行われ、自分は当選した。ゼレンスキーは、選挙の洗礼を受けない独裁者だ」と主張してきた。その主張が、アメリカの提案に入れられたのである。
ゼレンスキーは、「安全の保証が確約されれば、60~90日以内に大統領選挙を実施することができる」と述べている。
国際合意をことごとく破ってきたプーチン
停戦案をめぐっては、ウクライナ・ヨーロッパとトランプ政権との方針の相違が浮き彫りになっている。
領土割譲をめぐっては、先述したように、トランプ政権内部でも対立がある。しかし、「ウクライナが戦争に負けている」というトランプの認識は、ゼレンスキーに領土割譲を強いるであろう。
側近の汚職に揺れるゼレンスキー、そして支援疲れのヨーロッパは、果たしてこのトランプの圧力に耐えられるであろうか。
ウクライナは敗戦し、屈辱の講和を強いられるのだろうか。
ウクライナの安全保障をめぐっては、ブダペスト覚書(1994年)、ミンスク合意(2014年、2015年)と国際的合意が次々と反故になっていった。
1991年にソ連邦が崩壊したが、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンには核兵器が配置されていた。この3共和国は、ソ連邦から独立するときに、NPTに加盟し、核兵器を放棄する(具体的にはロシアに引き渡す)こととしたのである。そして、核放棄の見返りとして、ロシア、アメリカ、イギリスは、この3カ国の安全を保障することを約束し、1994年12月に署名したのが、ブダペスト覚書である。
しかし、ロシアは、2014年のクリミア併合、2022年のウクライナ侵攻と、ブダペスト覚書を破っている。
ソ連邦崩壊後、ウクライナでは、親欧米派と親露派の対立が続き、ドンバス地域(ドネツク州とルハンシク州)では内戦の様相を呈した。そこで、内戦回避のための国際的努力が展開され、2014年、2015年とミンスク合意が成った。内容は、無条件の停戦、捕虜の解放、最前線からの重火器の撤去、東部2州に自治権を与えるための憲法改正などである。
しかし、内戦は続き、2022年2月には、プーチン大統領は、「ミンスク合意はもはや存在しない」と述べた。そして、24日にはウクライナに侵攻したのである。
プーチンにとっては、国際的合意など、必要に応じて破り捨てる紙切れにすぎない。人類は、国際法すら通用しない野蛮な世界に逆戻りしている。




