完全拒否も受諾もできないというジレンマ
「NATOの5条(集団防衛)に似た保証は小規模攻撃では発動しない可能性がある。欧州が米国抜きでウクライナ防衛行動を取る仕組みがない。とはいえ、過去にウクライナが得たどの保証よりも強力だ。プーチンはこれを事実上のNATO加盟とみなして嫌がるはず」(フリードマン名誉教授)
ゼレンスキー氏は「28項目か、極めて厳しい冬か」「われわれは大声で非難しない。冷静に、建設的に米国と協議する」「ウクライナは和平を望んでいないという口実を敵に与えない」と完全拒否も受諾もできないというジレンマを抱えている。
ウクライナが取るべき対応としてフリードマン名誉教授は5つの要点を挙げる。(1)トランプ氏の短期デッドラインに慌てない。時間稼ぎは有効、(2)ロシアの本当の立場を明るみに出す、(3)ロシアへの圧力を弱めない、(4)文書の明確化を要求、(5)選別して条件を改善する、だ。
28項目和平案は戦争終結の「出発点」にはなりえても、ウクライナと欧州が同意可能な「ゴール」ではない。どの条項が交渉可能で、何が絶対に受け入れられないかを明確にしたことで、各アクターは今後の交渉ロードマップを逆算できるようになったと言えるかもしれない。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。



