
「戦争は2024年8月に始まった」
そう彼らは口をそろえた。“ロシア人避難民”の「戦争」に対する認識は、私が知っているものとはかけ離れていた。
ロシア市民はウクライナ戦争をどうとらえているのだろうか? クルスク州からウクライナに避難したロシア人避難民に取材することで、わずかではあるが垣間見ることができた。
1階にはウクライナの避難民、2階にはロシアからの避難民
2024年8月、ウクライナはロシアのクルスク州に越境攻撃を行い、一部領土を掌握した。
ウクライナ軍のロシアへの越境攻撃の目的は、ロシア軍の戦力を分散すること、和平交渉のためのカード、ロシア国内に対する心理的変化を狙ったもの、など多層的なものだと考えられている。
同年秋以降、ロシア軍は本格的にクルスク州におけるウクライナ軍への反攻を開始した。2025年4月になると、ロシアがその領土を奪還した。
ウクライナ軍によるクルスク州への侵攻が始まった後、すぐに多くの人がロシアのより内部の安全な街へと自主的に避難したという。しかし中には、その場にとどまった人もいた。
避難民への取材によれば、ウクライナ軍による攻撃開始後、ロシアの治安当局や行政は機能不全に陥ったという。市民たちは何が起こっているかを把握できないまま、事態が悪化していった。「どこに助けを求めればいいのか、状況を確認しに行けばいいのかも分からなかった」と説明してくれた。

そして気が付けば、ロシア側へと避難する経路は閉ざされ、逃げ場を失っていたという。