プーチン大統領、お誕生日おめでとうという垂れ幕が下がったロシアの歩道橋(2023年10月7日、写真:AP/アフロ)

プロローグ/ロシア近況概観

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 ロシア軍が2022年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、この原稿を書いている11月17日でプーチンのウクライナ戦争は間もなく丸3年と9か月にならんとしています。

 今年10月7日は、ロシアV. プーチン大統領73歳の誕生日でした。

 10月7日付「毎日新聞」朝刊7面に、今月初旬に開催された露バルダイ会議におけるプーシキンの詩を引用したプーチン大統領演説が掲載されています。

「諸民族が進軍しロシアを脅かしたが、我々は猛攻を受け止めた」とプーシキンの詩の一節を朗読して、ロシア愛国心を鼓舞。これは1812年のナポレオン戦争を謳った詩です。

 ナポレオンは大陸封鎖令に従わない帝政ロシアに侵攻して、1812年にモスクワを占領しました。

 ロシアにとりこれは祖国防衛戦争でしたが、ロシアにはもう一つ祖国防衛戦争があります。

 1941年6月22日のナチスによる対ソ開戦です。

 この2つの戦争は文字通りロシアにとり祖国防衛戦争でした。しかし、ウクライナ戦争はロシアにとり祖国防衛戦争ではありません。

 A.ヒトラーの対ソ侵略戦争同様プーチンの対ウクライナ侵略戦争であり、戦争の本質が正反対なのです。

 後世のウクライナ詩人は「ロシアが進軍しウクライナを脅かしたが、我々は猛攻を受け止めた」と謳うことになるのかもしれませんね。

 米D.トランプ大統領は10月22日、露石油会社ロスネフチとルークオイルに対する経済制裁強化措置を発表。インドと中国に対しては、ロシア産原油の輸入停止を要請。

 プーチン大統領の「一定の影響はあろうが、経済に重大な影響は与えない」との強気発言は、気が動転した弱気の裏返しにすぎません。

 余談ですが、日系大手メディアは一様に「ルクオイル」と表記していますが、正しくは「ルークオイル」です。

 LUKのLはランゲパス、Uはウライ、Kはコガリム油田の頭文字にて、西シベリアの優良油田です。

 ソ連邦末期、石油工業省V.アレクペーロフ次官(バクー生まれ・バクー育ちのアゼル人)は混乱のどさくさに紛れ、西シベリア3優良鉱区の利権を獲得。新生ロシア連邦誕生後、LUKオイルを設立しました。

 筆者はバクー駐在時、同社アレクペーロフ社長と会食したことありますが、彼は「ルークオイル」と発音しておりました(当然ですが)。

 閑話休題。

 米の対露経済制裁発表直後に油価は高騰しましたが、OPEC(石油輸出国機構)は即座に反応して原油増産意向を表明。この結果、油価は下落傾向に入り、油価は元の実需給に基づく油価水準に落ち着くことでしょう。

 今回の米国の対露経済制裁強化措置により、「影の船団」を使用してのロシア産原油の海上輸送が困難になることは予見されますが、ロシア産原油が世界市場から完全に締め出されることはあり得ません。

 ロシア産原油は新たな市場を模索・開拓するはずですが、問題は油価。

 ロシア産原油(ウラル原油)を輸入停止した欧州市場に代わり新たに登場したのがインド市場でした。ロシアが払った(払っている)代償はウラル原油のバナナの叩き売り油価。これは、ロシアの国益がインドの国益に転化している姿です。

 油価下落と低迷。これこそ、欧米による対露経済制裁措置の効果と言えます。

 本稿では、定量的にロシア国家予算原案と継戦能力を分析・評価したいと思います。