平賀源内生存説 ③絵師転身説
また今回の放送では、戯作者の大田南畝(おおた なんぽ)が源内から預かった西洋図を蔦重に渡すというシーンもあった。蔦重は「源内先生はどこかで絵師をやっているのではないか?」と考えるようになり、ていもそれに同意している。
ドラマで出てきた西洋図は『西洋婦人図』で源内作と伝えられているもので、現在は実物を神戸市立博物館が所蔵している。前述した小田野直武は、源内に洋書の挿絵を見せられて大いに刺激を受けたらしい。源内と江戸に出て、西洋画法を学ぶと、西洋的遠近法を東洋画に取り入れた作品を発表。「秋田蘭画」と呼ばれるジャンルの担い手となる。
源内の影響は、直武のみにとどまらなかった。秋田藩主でもあった佐竹曙山(さたけ しょざん)は直武から洋風画を学び、日本初の西洋画論である『画法綱領』『画図理解』を執筆した。また司馬江漢(しば こうかん)のように直武から指導を受けて、日本で初めて銅版画を創ったアーティストもいる。
そんなふうに多方面で活躍して後世にも大きな影響を与えた源内だけに、獄中で死に至らずに実は生き延びていたということになれば、同時代を生きた人々は興奮するのも、当然だろう。ドラマ終盤でのこんな言葉が心に残る。
「源内先生ってのは、てえしたもんだ。おていさんを、こんな元気にしちまうんだから」
今回の放送では、「源内生存説」の真偽を探っているうちに、蔦重とていが子を亡くした心痛から立ち直っていくプロセスが描写されることになった。
「源内生存説」をストーリーの軸にした大胆な展開は、SNSでも大きな話題となった。私も「こう来たか!」と唸らされながら、多方面で足跡を残した源内のエネルギッシュさを改めて実感した次第である。
次回は「その名は写楽」。蔦重は、役者の素の顔を写した役者絵を出すことを思いつく。
【参考文献】
『平賀源内』(芳賀徹著、朝日選書)
『平賀源内』(新戸雅章著、平凡社新書)
『新版 蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』(松木寛著、講談社学術文庫)
『蔦屋重三郎』(鈴木俊幸著、平凡社新書)
『蔦屋重三郎 時代を変えた江戸の本屋』(鈴木俊幸監修、平凡社)
『宇下人言・修行録』(松平定信著、松平定光著、岩波文庫)
