履物屋に婿入りするも長続きしなかった曲亭馬琴

 一方の瑣吉も転機を迎える。今回の放送では、山東京伝(北尾政演)が蔦重のもとを訪れ、瑣吉に婿入りの話が来ていることを伝える場面があった。

 瑣吉、つまり後の曲亭馬琴は実際にも、蔦重のもとを離れて、履物屋「伊勢屋」に婿入りしている。

 といっても、馬琴は気難しい性格で、浮世絵師の葛飾北斎と仕事を共にしたときも、度々ケンカしているくらいだ。商人の仕事が続くわけもなく、履物屋から飛び出していき、その後は文筆業として専念することになる。

 タイミングとしては、そんな馬琴と入れ替わるように、一九は蔦重のもとに身を寄せることになる。この2人が日本で初めての職業作家として名を残すことになるのだから、当時の蔦重の吸引力は本物だったのだろう。

 残念ながら、馬琴が『南総里見八犬伝』で、一九が『東海道中膝栗毛』で大きく飛躍するのは、蔦重の死後のことだ。今後のドラマの展開として、後の名作誕生のヒントとなるようなアドバイスが蔦重から発せられることがあるのか、気になるところだ。

 両作とも誰もが耳にしたことがある作品だけに、その執筆背景がドラマで少しでも描かれると、改めて再読するきっかけにもなりそうだ。