平賀源内(写真:近現代PL/アフロ)
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 NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第44回「空飛ぶ源内」では、耕書堂で出版したいと現れた貞一(さだかつ)から蔦重は「平賀源内が実は生きている」と聞かされる。噂の真偽を探るべく、杉田玄白や大田南畝らのもとを訪ねることにしたが……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

精力的に作品を発表した十返舎一九

 一人の歴史人物にスポットライトをあてるNHK大河ドラマでは、最終回が近づくにつれて、主人公の晩年に差し掛かるため、寂寥感が漂うことが多くなる。とはいえ、『べらぼう』での蔦屋重三郎ほどの「闇落ち」ぶりは珍しいかもしれない。

「身上半減」の影響で経済的に苦境に立たされる中で、喜多川歌麿からは決別され、妻のていが身ごもった子どもは死産。どんな困難も笑い飛ばしてきた蔦重も、今回ばかりはすっかり意気消沈している。

 今回の放送では、どれだけ元気づけようとしても覇気のない蔦重の姿に、養父の駿河屋や、吉原の女郎屋「大黒屋」の女将・りつ、そしてライバルから仲間となった鶴屋喜右衛門といった人まで、呆れて離れていこうとする様子が描写された。

 間が悪いことに、よりによってそんな状態の蔦重のもとに現れたのが、井上芳雄演じる貞一(さだかつ)である。のちに「十返舎一九(じっぺんしゃ いっく)」の名で『東海道中膝栗毛』を書き残すことになる人物だ。

 放送では、貞一が大坂時代に書いた浄瑠璃本を蔦重に見てもらう場面があった。実際の十返舎一九も明和2(1765)年に駿河で下級武士の子として生まれるが、江戸での武家奉公を経て、大坂に移り住んでいる。

 大坂で浄瑠璃を学んだようで、「近松余七」の名で『木下蔭狭間合戦(このしたかげはざまがっせん)』という合作浄瑠璃を発表。自分なりに手ごたえがあったのだろう。武士をやめて戯作者として生きるべく、江戸にわたって蔦重のもとに身を寄せることになる。

 ドラマでは、作家見習い兼手代(てだい)として蔦重のもとに置いてもらっている瑣吉(さきち)は、突如現れた貞一に対抗心を燃やす。貞一が書いた浄瑠璃本を蔦重に渡すと「ここは天下の蔦屋耕書堂、こんなものが通用すると思うな」とすごんでみせた。

 蔦重が貞一の浄瑠璃本を読んで「ほかに行かれた方がよろしいかと」と言うと、瑣吉は「他所へ行け、他所へ行け!!」と貞一を追い出そうとするが、蔦重の真意は別のところにあり、こんな言葉を続けた。

「これだけ書けりゃあ、どこでも書いてくれって頼まれまさ」

 どこでもやっていけると太鼓判を押された貞一。実際の一九も耕書堂で黄表紙を連発しながら、ほかの版元でも書きまくって、広い世界へと出ていくことになる。

『べらぼう』での貞一のキャラは、そんな一九の世渡り上手なところがうまく表現されていたように思う。