洗練されたSNS戦略を駆使してニューヨーク市長選に勝利したマムダニ氏(写真:AP/アフロ)
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(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 現地時間の11月4日、米ニューヨーク市で市長選が行われ、民主党候補のゾーラン・マムダニが当選した。彼の当選は全米、いや全世界から驚きをもって受け止められている。世界各国でいわゆる「右派」と見なされる政権が誕生し、米国もトランプ政権が極めて右派的な姿勢を見せる中、マムダニは「急進左派」と呼ばれる思想の持ち主であるためだ。

 しかも彼は34歳と若く、インド系で、またイスラム教徒でもある(さらに言えば元ラッパーという異色の経歴も持つ)。事実、彼の支持率は1年前まで1%にも満たなかった

 彼の思想が左派的なのかどうかについては、いったん脇に置きたい。ここで注目したいのは、「いまの政治環境はあらゆる面で彼にとって逆風でしかないはずなのに、いったい何が彼をニューヨーク市長選で勝利させたのか」という点だ。

 この問いに対する1つの答えとして、多くのメディアが「優れたSNS戦略」を挙げている。もちろんそれだけが勝因ではないが、実際にマムダニはTikTokやInstagramなどに洗練された動画を次々と投稿し、若年層を中心に多くの有権者やボランティアを引きつけた。

 また、対立候補であった元ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモがテレビを中心に多額の資金を広告につぎ込む中、マムダニはTikTokとInstagramでのオーガニックリーチ(SNS上に投稿したコンテンツに対して、広告経由で閲覧を集めるのではなく、自然発生で閲覧してもらうこと)に注力。結果として、クオモ陣営の1票あたりの獲得コストが87ドルだったのに対し、マムダニ陣営はわずか19ドルと、5分の1以下の獲得コストで勝利を収めたと分析されている

 しかし、選挙にSNSを活用するなどというのは、現在では当たり前の話だ。いったい彼のSNS戦略は、他の候補者や従来の政治家のSNS戦略と比べて、何が新しかったのだろうか。