世界のリーダーに学ぶ4つの外交戦略

 トランプ大統領と“うまくやる”ために、いくつかの世界の指導者たちの成功事例は、トランプ大統領への対応という深刻かつ重大な外交課題に示唆を与えてくれている。

(1)ストゥブ大統領の“実利型外交”──共通利益の“見える化”

 フィンランドのストゥブ大統領は、世界のリーダーたちの中でも、最もトランプ大統領とうまくやっているリーダーと評価してよいだろう。

 青年期からのゴルフ好きも相まって、マール・アラーゴでトランプ大統領とゴルフをプレイし、個人的信頼関係を構築した点では、今やストゥブ大統領こそ安倍元首相の忠実な弟子ともいえるだろう。日本訪問時の東大での講演で、ストゥブ大統領はフィンランドは日本のようなパワー(power)がないからこそ、その影響力(influence)を高めてきたと述べている。

 実際、ストゥブ大統領は、トランプ大統領とのゴルフの直後に、北極圏の戦略的重要性を念頭にフィンランド製の砕氷船4隻の売却と7隻の米国での建造に関する合意まで取り付けるなど、米国にとっての具体的利益を提示することで、自らの影響力を持ってトランプ大統領を動かした。無論、その前提として、ロシアと1300キロメートルの国境を接するフィンランドが、欧州の中でも対ロシア安全保障上の最前線に位置しているという、フィンランドと米国の安全保障上の戦略の一致が大きく作用していることは間違いない。

 この点で、日本にとっても、東アジアにおける安全保障上の戦略的利害の一致を基に日米が共有できる“実利”の提示が不可欠だ。幸いなことに、フィンランドに比較して、日本には防衛産業、AI、量子技術、そして半導体供給網の共有体制の構築など多くの強いカードがある。

 すなわち、抽象的な「価値の共有」を超える、目に見える相互利益の数値化と制度化──これがトランプ政権下での同盟外交の普遍的言語となっていることを、改めて認識する必要があるだろう。

(2)メローニ首相の“理念調整外交”──保守的価値観の共鳴と実務的バランス

 欧州の中でもう一人、トランプ大統領とウマが合うリーダーといえば、やはりイタリアのメローニ首相であろう。同首相は、保守主義を体現するイデオロギー的親和性を通じてトランプ大統領の信頼を得てきた。

ホワイトハウスで開かれたウクライナ戦争に関する会合で発言するトランプ大統領と、会合に出席したイタリアのジョルジャ・メローニ首相(2025年8月18日、写真:ロイター/アフロ)