ワシントンD.C.のホワイトハウスで会談したフィンランドのアレクサンダー・ストゥブ大統領と米国のドナルド・トランプ大統領(資料写真、2025年10月9日、写真:UPI/アフロ)
◎この記事のポイント
・混沌を極める国際情勢の中、高市新政権は安倍外交を継承・発展させる形で、トランプ第2期政権に対応する新戦略を打ち立てる必要がある。
・フィンランド、イタリア、カナダ、イスラエルのリーダーがいかにトランプ大統領に向かい合っているかは、日本外交にとっても貴重な教訓となる。
・自律性を高め、地域の安定と自由な国際秩序を主導する外交へと進化することが、高市新首相に課された使命である。
(松本 太:一橋大学国際・公共政策大学院教授、前駐イラク大使、元駐シリア臨時代理大使)
2025年10月21日、新たな日本の首相に就任した自民党の高市早苗総裁は、国際政治の大転換点に立つことになった。ウクライナ戦争や中東地域の紛争に加え、インド太平洋地域でも、トランプ大統領が主導する関税政策を巡る米中間の緊張関係により再び不確実性が高まっている。
トランプ政権の第2期が始まって10カ月が経つ今日、東アジア地域のいずれの国々において最も重要な課題は、依然として米国大統領自身との信頼関係をいかに構築するかにある。
世界のリーダーたちは、すでにトランプ大統領をいかにうまくマネージしていくかについて、外交上の知恵を実践し始めている。一方で、シドニー大学米国研究センター所長のマイケル・グリーン氏は、「フォーリンアフェアーズ」紙への寄稿“Asia’s Trump Problem”において「トランプの意向を最もよく読み取っていた安倍氏を失ったことで、アジアは対米関係においてやや方向を見失っているようだ」と指摘する。
アジアの国々は依然として、安倍晋三元首相が果敢に果たした「トランプ大統領との仲介役」という役割を埋められずにいるのだ。アジアはいま、米国大統領とその側近たちとつながる強力な人的回路を失ったまま、地政学的な荒波の中にある。
本稿では、世界の4人の代表的な首脳たち──フィンランドのアレクサンダー・ストゥブ大統領、イタリアのジョルジャ・メローニ首相、カナダのマーク・カーニー首相、そしてイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相──のトランプ大統領に対する対応戦略を取り上げつつ、そこから学びとれる教訓を探ることで、トランプ大統領が率いるアメリカにどう対応していくべきか、改めてよく考えてみたい。