日本に求められる大きな役割
マイケル・グリーン氏が前述の寄稿で論じるように、トランプ大統領が最も深く信頼したアジアのリーダーは安倍晋三元首相であった。安倍氏は、20回以上の首脳会談、5回のゴルフを通じ、トランプ大統領の感情をよく理解し、利用し、そして、導くという稀有な能力を発揮した。
その外交の本質は、単なる米国への迎合ではなく、米国の力を日本の利益と重ね合わせる構想力にあった。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想を日米共通戦略へと昇華させたのは、その象徴である。
高市新総理がトランプ大統領との関係で担うべきは、まさに“安倍外交の精神的継承”であろう。だが、第2期政権におけるトランプ大統領の一連の新たな言動や現在の国際秩序の一層の不安定化を前提とすれば、単に過去の再現にとどまらない新たな構想力や戦略が求められていることもいうまでもない。
なぜならば、今やトランプ政権の動向は、第1期政権時代以上に予測が困難となっているからだ。第1期トランプ政権の際と比べ、大統領側近や米国NSC(国家安全保障会議)の影響力も減少している。今やトランプ大統領本人との関係が世界中の二国間関係全体を大きく左右している。
また、日本がインド太平洋における中長期的な安全保障を担保する上で頼りとしてきたQUAD(日米豪印戦略対話)のメンバーであるインドやオーストラリアと米国との関係も動揺をきたしつつある。これに対して、トランプ大統領の弱みを見透かしたかのように、米国に対抗する中国やロシアといった主要国の出方が一層強硬なものとなっていることも見逃せない。
こうした中で一層重要になっているのは、トランプ大統領個人とその少数の側近たちとの信頼構築を軸にしつつ、その成果を日米同盟およびパートナー諸国との制度的枠組みへと昇華し、トランプ政権の唐突な要求や政治的な衝動にも十二分に耐え得る、柔軟かつ制御的な同盟関係構造をつくることである。
同時に、混沌を極めつつある国際秩序全体の維持、形成という観点から、国力にふさわしい役割が(そして圧倒的な地政学的変化が津波のように押し寄せている東アジアにおいてはその国力以上の役割が)日本に求められていることも、私たちは忘れてはならない。