各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介する書評コーナー『Hon Zuki !』。ノンフィクションを中心に「必読」の書を紹介します。
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「コングロマリット」といえば、これに続く単語は「ディスカウント」と相場は決まっている。これは株式市場の常識である──と思いきや、逆に「プレミアム」になり得るというのが本書の核心である。

「コングロマリットディスカウント」とは、複合企業の価値が株式市場で割安に評価されることを指す。コングロマリット、つまり事業を多角化している企業の株式は、個々の事業を別々に評価した場合の合計(サム・オブ・ザ・パーツ)よりも低い価格で取引されるという意味である。

 割安に評価されてしまう要因は、事業構造が複雑になると企業の全体像を把握しにくくなること、事業間シナジーへの投資家の不信感、経営者による非効率な資本配分の恐れ(エージェンシー問題)、そして投資家が分かりやすくシンプルな企業を好む傾向などにある。

経営者のための正しい多角化論 世界が評価するコングロマリットプレミアム』(松岡真宏著、日本経済新聞出版)

 ディスカウントの例として日本で直ぐに思いつくのが、総合商社である。前紀末から始まる世界的IT革命は、商品やサービスの売り手と買い手の直接のやり取りを可能にすることで、商社が中抜きされるという「商社不要論」の再燃につながり、総合商社の株式は激しく売られた。その結果、世紀の変わり目前後に、ほとんどの総合商社の株価は歴史的安値を更新することになった。

 ところが、投資会社バークシャー・ハサウェイの創業者ウォーレン・バフェットが総合商社の株式に積極投資したことで、この流れが一変する。

 バフェットの投資の背景として、①総合商社の資産価値や収益力に比べて株価が割安で、高配当による安定したキャッシュフローが得られる、②世界各地に資源や食料などの権益があり、インフレに強い収益構造を持っている、③多角的事業ポートフォリオを、優れたリスク管理能力で効率的に運営している、④長期志向の企業文化や国際的に分散したビジネスモデルで、通貨分散の効果も得られることから、長期的な投資先として理想的であることが挙げられる。