日本がお手本にすべきコングロマリット企業

 日本の手本になるコングロマリットは、新興テック企業中心のアメリカではなく、ヨーロッパなのである。

 日本では、長らく経営の多角化をリスクとみなす、効率至上主義の企業風土が続いてきた。また「コングロマリットディスカウント」の議論は、企業の株式を一定割合取得し、経営に積極的に関与することで企業価値を高めることを狙うアクティビスト投資家には、使い勝手の良い口実でもあった。

 コングロマリットを解体して、各企業や各事業を個々に還元することは、アクティビストや買収を目論む海外企業にとっては、外部から分析しやすい専業企業が続々と生み出され、投資や買収の対象が増える都合の良い状態だからだ。

 日本を代表するコングロマリットであるセブン&アイ・ホールディングスは、アクティビストからの非コンビニ事業分離を求める圧力で、総合スーパーのイトーヨーカ堂や赤ちゃん本舗など専門店の売却を決定し、脱コングロマリットを推進してきた。しかし、コングロマリットディスカウントが解消して、株式市場での評価が上がったかと言えば、そうではない。 

国内成功事例の富士フイルムとソニー

 一方、日本でも数少ないコングロマリットの成功例はある。 写真フィルム市場が消滅していく中で、富士フイルムが医療分野と化粧品・バイオサイエンスに技術を転用し、見事な再生を遂げた多角化によるシナジーの事例や、ソニーが音響やゲームから金融や映画に至る複数の領域で収益源を築いた事例である。このことは、「選択と集中」神話が信じられている日本においても、事業間の相乗効果と持続性の確保が可能であることを立証している。

 本書を読むと、多角化戦略は単に「事業を増やす」という単純な話ではなく、その成果は、戦略の立て方や経営体制の整備によることが分かってくる。

 成功する多角化には、次のようないくつかのポイントがある。

①総合商社のように、しっかりとした事業構造とビジネスポートフォリオ間の相乗効果(シナジー)がある多角化であること
②既存の強みや経営資源(ケイパビリティ)を生かせる「関連多角化」が成功の鍵であり、まったく関係のない分野への「非関連多角化」はリスクが高いということ
③単なる事業拡大ではなく、報酬制度やガバナンス、事業ポートフォリオの設計といった制度面までをも含めて一体的に考える