コングロマリットを正しく経営できるか

 過去四半世紀という時間軸で見ると、苛烈なM&Aによって世界中で上場企業数が半減している。世界レベルでは、上場企業数が継続的かつ緩慢に増えている日本とはまったく異なるダイナミズムが躍動しているのである。

 著者は、日本企業が多角化を戦略から排除した背景には、財閥解体という日本特有の歴史的背景があり、今こそ日本企業が見逃してきたコングロマリット型の潜在力を再評価すべきだという。

 そして、ユニコーンという見果てぬ「青い鳥」を探すのではなく、大企業や伝統的企業が自らの課題を真正面から見据え、改革をする以外に方法はないのだと。

 その上で、①起業家精神に基づく多角化の有効性、②真に正しい経営陣の登用、③失われたアニマルスピリットの回復という3つの行動を提案している。ただやみくもに事業を増やすのではなく、制度、構造、人材の質を統合的に構えることが、正しい多角化論の核心だという。

 つまり、コングロマリットディスカウントというのは、コングロマリットという形式的な企業形態の問題ではなく、コングロマリットを正しく経営できるかどうかというマネジメントの質の問題ではないかというのが、著者の投げかける本質的な問いなのである。

海外も巻き込む「新しい財閥」の形成

 著者は、コングロマリットによる企業価値の向上、すなわち健全な「コングロマリットプレミアム」の追求にこそ日本経済再生の秘訣があるとして、次のように語っている。

「日本では、コングロマリットディスカウントという不名誉で不正確な議論が一般化することで、企業経営者は多角化に二の足を踏んでいる。コーポレート・ガバナンス強化の中でビジネスのダイナミズムに不慣れな多くの社外役員が粗製され、企業経営者のアニマルスピリットを奪っている。 大海原にどっしりと根を張るサンゴ礁は、多くの小魚や小動物にとって安全な住処である。同様に、コングロマリットが存在することで、中小企業や個人事業主は様々な経済活動を安心して行うことができる。 サンゴ礁が消失した海では小魚や小動物は生存が困難だ。アメリカには新興コングロマリットがいる。欧州には100年企業を核とした伝統的コングロマリットがいる。アジアには戦後に急速に育成されたコングロマリットがいる。 世界経済はコングロマリットと踊り続けているのだ。」

 これからのコングロマリットの形成は、「戦前の財閥」の復活を意味するものではない。戦後に同質化したままで膨張した、銀行を中心とした既存の企業グループを指すものでもない。事業を軸とした、海外をも巻き込む「新しい財閥」の形成なのである。

 本書は、コペルニクス的な発想の転回によって、事業の多角化を「企業価値を高めるための精緻な経営デザイン」として理解する手がかりを与えてくれる良書である。

堀内 勉(ほりうちつとむ)
1960年東京生まれ、東京育ち。東京大学、ハーバード大学大学院卒。資本主義の教養学公開講座を主催し、資本主義研究を進める傍ら、邦銀、外資系証券を経て大手不動産会社で経営に携わった経験を基に、現在、多摩大学大学院、青山大学大学院で教鞭をとる。趣味は料理、ワイン、漆器収集、読書で、軽井沢でワインバーも経営している。読書はノンフィクション中心で、ジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで、知的興味をそそるものであれば何でも。
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各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります

(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)

 この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。

 この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。

 私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。

 簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。

 それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。

 ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。

 少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。