離れたことで得た発見や気づき
実際は翌シーズンに復帰したが、復帰するつもりがなかったところから変化していった経緯をこう語る。
「(指導を受ける岡島功治)先生に『いつ練習来ますか』って言ってもらったのがきっかけでだんだんリンクに戻るようになりました。そこからだんだんできるようになるのが面白いなって思いながら、ふわふわした感じでシーズンに向かっていたんですけど、復帰シーズンの最後の試合だった1月末の国体で『この感じで終わるのは違うな』って思いましたし、もうちょっとやれることがあったなとも思いました」
そして復帰2シーズン目を終えた今、休養前との変化を感じることがある。
「以前は練習だったり、試合への臨み方というか自分のモチベーション的にもっと『ぴりついている感じ』というか、振り返ってみると、それこそあまり楽しくないな、と思っていました。でも復帰して1年目は、離れている時間が長かったのでできなくなっていることが多くて、ゼロの状態からできることが増えていく中でスケートって難しいなと感じたり、だからできるようになるのが楽しかったです。その面白さをあらためて知ることができました。そもそも試合に出たり、海外に行くのもなかなかできないことなんだな、というのも感じました」
いったん離れたことで得た発見や気づきがあった。それがこの1年の、リンクの内外での充実したたたずまいにもつながっていたのだろう。
休んだことで得たのはそればかりではなかった。
「スケートから離れている期間、それまでより大学に行く機会が増えたり、スポーツの世界の人だけじゃなくいろいろな人と話したり、自分よりも年下なのに自分よりしっかりしている人がたくさんいて、全然知らないことがたくさんあって、もっといろんなことを知りたいと思ったし、スケート界だけじゃなく普通の人として生きるためにすごく自分が必要なことをその期間で少し学べた感じがします」
幅が広がったことはスケートとの向き合い方にも変化をもたらした。
「北京オリンピックまでのシーズンは、『練習休んだらできなくなっちゃう』っていう焦りとか、当たり前なんですけど軸がスケートになっている感じがありました。今ももちろんスケートという大きな軸はありつつ、普通の人として生きている軸も大事にできているので、疲れたなと思ったら休めるようになったし、自分の意思でいろいろ決めて、自分がどういう風でありたいからこういう生活をすると決めるようになったっていうのも大きくて、それが自信だったり余裕につながっているなと思います」
納得のいく試合を重ねたシーズンを過ごし、新たなシーズンを迎えようとしている。樋口にとって、特別なシーズンでもある。(後編へ続く)