2025年12月21日、全日本フィギュアスケート選手権、女子シングル、フリーの演技を終えた三原舞依 写真/長田洋平/アフロスポーツ
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(松原孝臣:ライター)

競技人生を象徴する演技

 滑り終えると、氷の上にひざまずき、しばらく顔を上げることができなかった。波打つ肩が、あふれる感情を物語っていた。

 12月21日。この日、全日本フィギュアスケート選手権の女子フリーが行われた。

 それは今シーズン限りでの引退を表明している三原舞依にとって、全日本選手権という舞台で披露する最後の演技だった。

 中野園子コーチがいつものように、いやいつもより強く背中をたたいて送り出す。三原は掲げた両こぶしをぎゅっと握り、スタートポジションに。

 あとで映像で観返すと、言葉を発していた。一連の流れを、三原は振り返りながら語った。

「6分間練習も、演技始まる前も、心の奥までたくさんの声援をいただくことができてすごく緊張感あったんですけど、それ以上にほんとうに幸せだなという思いが心を占めていました。たぶん始まる前にガッツポーズしていたと思うんですけど、それくらいうれしさと幸せな思いというのが体のすべてを占めていて、その思いをスケートで表現したいなと思って、最初のポーズに立って『ありがとうございます』と声に出しながらスタートしました」

 そこからの4分間は、ただただ、三原の魅力が際立った時間だった。

 流れのあるスケーティング、華やかなスパイラル、曲の世界を伝えるステップ……。そしてすべてのジャンプを着氷。この舞台を締めくくるにふさわしい演技を展開してみせる。

 最後のスピンを迎える。

「スピンに入ったところからたくさんの拍手の音が聞こえてうれしさいっぱいだったんですけど、最後の最後までスピンのレベルとか回転の数を数えながらスピンしていました。ほんとうにうれしくて、最後のポーズをとったときは自分でもびっくりするくらい涙がこぼれてきて、ご挨拶のとき、前が見えなかったんですけど、上の方までお客様が拍手してくださっているのが見えて、すごくうれしくて幸せだなと思いました」

 先々シーズンに負った怪我の影響は長引き、昨シーズンの全日本選手権もフリーを棄権。あれから1年。この日の演技は、三原の競技人生を象徴していた。

 広く知られるように、体調不良でシーズンを休まなければいけないときもあり、何度も突き落とされるような思いを味わってきた。思い描いた目標をかなえられず、涙したこともある。

 はたからは何度もどん底のような状態に直面し、そのたびに氷上に立ち、元気な姿を見せた。

 その原動力を尋ねると、いつも答えは変わらなかった。スケートが好きだという思いと、「支えてくださる、応援してくださる皆様への感謝」だ。

 フリーを演じきったあとの言葉にもあふれていた。

「本当に温かい空気感の中で、すごく緊張していたんですけど、その緊張が吹っ飛んでいくぐらい幸せな思いに包まれながらスタートすることができて、幸せ者だなっていう言葉に尽きるかなって思います」

「私自身を作ってくださったのは、本当に応援してくださる皆様です」

 だからいい演技で応えたいといつも思ってきた。それが原動力としてあった。