2025年11月8日、GPシリーズ、NHK杯、男子シングル、FSを滑り終えた佐藤駿 写真/アフロスポーツ
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(松原孝臣:ライター)

中国杯、NHK杯を通じて好演技

 演技を終えた瞬間、右手を突き上げた。それが控えめに感じるほど、演技は魅力を放った。

 11月7・8日に開催されたフィギュアスケートのNHK杯。8日には男子フリーが行われた。

 ショートプログラムで2位につけていた佐藤駿は会心の出来をみせて、フリーは1位。優勝した鍵山優真を上回る得点をあげた。結果、総合では2位と表彰台に上がった。

 冒頭、「これまででいちばんよかったのではないかと」、と佐藤自身が語るように、鮮やかに4回転ルッツを決める。その後も次々にジャンプを成功させる。ミスの一つもないパーフェクトな滑りをみせる。 

「練習のそのままを本番で出せてうれしかったです」

 柔和な表情で答える。

 先だっての中国杯では優勝しており、今回の2位でグランプリファイナル進出も決めた。成績もさることながら、2試合を通じて、ショートプログラム、フリーともに好演技を披露したことに大きな価値がある。

 充実をみせる佐藤だが、シーズンへの入りは順調とは言えなかった。6月の「ドリームオンアイス」で右足首の骨挫傷を負った。全治約2カ月の診断を受け、本格的な練習再開は8月下旬であった。

 今も万全ではなく、必要に応じて痛み止めを服用する。つまり、練習スケジュールも当初とは異なり、試合でも怪我と向き合いつつの状態にある。

「(公式練習でも)あまり無理してやらなように心がけています」

 その中で、好演技を並べられる理由を、指導する日下コーチはこう語る。

「常にいい緊張感を持った練習ができていて、そこらへんがいかされていると思います。やっぱり怪我から、練習への集中が増したりとかはありますね。もちろん痛くないのがいいとは思うんですけれど、その中で気づいた部分は多かったと思います。具体的に言ったら、緊張感を持った練習もそうですし、スピン、ジャンプ、(プログラムの)前半、後半など分けていく練習もそうですし、練習の仕方、工夫が成長につながってきたんじゃないかなと思います」