文=松原孝臣 撮影=積紫乃
「あまり考えてないんですよ」
足を踏み入れた途端、圧倒される。窓の外に木々が広がる穏やかで静謐なアトリエには製作の途中にある衣装が数多く吊られている。
圧倒されるのはそれらばかりではない。壁沿いには生地や糸、ストーンなどがボックスなどに整理されて並べられている。その数こそ、圧倒的だ。
「どんどん増えていっているんです」
笑顔を見せるのは、衣装デザイナーの折原志津子だ。国際大会で活躍するトップスケーターを含む数多くのスケーターの衣装のデザイン、製作を手がけてきた。昨シーズンは宇野昌磨のフリー『G線上のアリア』、山本草太のフリー『ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番』、三原舞依のエキシビションナンバーである『アメイジング・グレイス』『さくら』などを手がけ、それぞれが強い印象を放った。それは衣装と選手、演技が巧みに絡み合い、融合されていることから生まれていた。
依頼にあたって、選手側から寄せられる要望はさまざまだ。色の指定があったり、テイストの希望があったり、その度合いも異なる。そもそもプログラムで使用する曲が、デザインにおいての大きな要素となる。
その中で、どのように折原のデザインにおける色合いは生まれるのか。
「あまり考えてないんですよ」
と答える。さらに尋ねると、折原は語った。
「最初に絵を描きます。どのようにイメージするのか……『これ、似合いそうだよね』で始まっていると思います。この色を着たことはないけれど似合いそうとか、こんなのを着たらかわいいんじゃないかとか、そういったところからでしょうか。ですから自分の想像力というより、まずはその子が今までにどんなのを着ているかを見たりして、せっかくなら違うものを作ってあげたいという感じだと思います」
その上で、例えば、この数シーズン手がけてきた三原舞依についてこう語る。
「舞依ちゃんの場合は、華奢で小柄なので可愛くなりすぎずに、ということを意識しています。色味もこだわりますし、ふわっとさせたり。私が作るのはいつもAラインです。それがすごく似合っているので、あまり他が考えられない感じですね」