文=松原孝臣 写真=積紫乃
フィギュアスケートに欠かせない存在
記者会見が行われている会場の一角の席に座り、日本の選手の言葉を日本語から英語に、海外の選手の言葉を英語から日本語に訳す。試合直後の会場内の優勝インタビューでは選手のかたわらに位置し、やはり言葉を訳して伝える……。これらに限らず、大会の中のさまざまな場面でその姿を見かける人がいる。
通訳の平井美樹である。政治、ビジネスなど多方面で活躍する平井は、それらに加え、日本スケート連盟の通訳として、長年にわたり職務を果たしてきた。もはやフィギュアスケートに欠かせない存在と言ってよい。
その役割は多岐に渡る。
例えば、大会では試合が始まるより前から終わったあとまで、やるべきことが続いていく。
「選手たちが会場に入る日、ISU(国際スケート連盟)のオフィシャルズディナーなど、まずいろいろなおもてなしの場があります。そこで司会をしたり、日本側のゲストのご挨拶を通訳したり、テーブルに会長と一緒に座ってトップ外交のお手伝いをしたり。また、皆さんが楽しんでいるかどうか、お声がけしたりもあります」
試合が始まれば、その進行に即して役割を果たす。
「選手が滑り終わったときにミックスゾーンでインタビューの通訳をして、記者会見でも通訳をします。それから優勝した選手の、キスアンドクライで行われるインタビューの通訳ですね」
試合が終わってもまだ続く。
「最後のバンケットの通訳と司会があります」
バンケットとは試合が終わった翌日、エキシビションの後に行われる打ち上げパーティーだ。
「エキシビションをやっているときは、ホテルでバンケットの最後のリハーサルをしています。司会の練習、ゲストのアレンジや余興などもありますから」
そして平井が担うのは、大会時のそうした役割にとどまらない。
例えば今年3月にさいたまスーパーアリーナで行われた世界選手権では、開幕直前にISUの会議が行われた。ここに平井は参加している。
「フィギュアスケートをどうよくしていこうかということも話し合われました。この会議で、日本のフィギュアスケートの背景と成功の要因についてのプレゼンテーションを、日本スケート連盟の土井朝子さんと私で一緒にしました。そこは参加者兼通訳みたいな感じで行いました」
平井は、「なんでも屋なので」と笑うが、英語が関連してくる部分について、あらゆる、と言ってよいほど携わっている。
余談ながら、7月に「THE ICE」出演で来日したネイサン・チェンが自伝の出版記念イベントを開催した際は、司会と通訳を務めた。それも平井とフィギュアスケートとのかかわりを示す一例である。
ただ、こうして活躍する場を広げ、継続してくることができたのは、職務に対する姿勢あればこそだろう。