いかに選手の真意を伝えるか

2010年3月28日、世界選手権でエキシビジョンを演じる浅田真央 写真=LaPresse/アフロ

 例えば、選手の言葉を通訳する際の心がけをこう語る。

「選手はリンクから降りて来て悔しい思いをしている、あるいは勝ってうれしい、いろいろな感情があります」

 それらの感情や思いを言葉にまとめるのは選手にとってたやすくはない。ましてや演技から間もないタイミングだ。

「選手の言葉は忠実にとります。ただ、『英語として座りがいい』と言いますが、ちょっとした肉付けをしたり、補足説明を入れたりします」

 そして2010年世界選手権の浅田真央に触れた。前月のバンクーバーオリンピックで銀メダルを獲得したがジャンプの失敗などがあり浅田本人は悔しい思いを吐露した。だがその翌月、パーフェクトな演技を見せて優勝を遂げた。

「印象的だったのが、キスアンドクライでインタビューをやったときに満足している様子でした。あれだけ完璧にプログラムを滑り切ったことがうれしいんだなと思って、記者会見でもそれが伝わるような訳をしました。

 今年3月の世界選手権で優勝したときの宇野昌磨さんの場内インタビューもそうです。いろいろなことを考えていて、それらが言葉になって出てくる。それを認識力の高い記者さんたちがちゃんと組み立てて書いてくださるけれども、その日本語をそのまま英語にするとどうしても伝わりにくいところがあるんですね」

 いかに選手の真意を伝えるかに腐心する。そのための準備にも力を注ぐ。

「選手と越えてはいけない一線はあって、選手と親しいわけではないんですけれども、見ていることで分かる点もあります。リンクに乗るまでの裏を見ていたり、先生たちの話を聞いていたり、前日のウォームアップ練習も含めて見ていて、記者さんに話しているのを聞いていると、なんとなくこういう精神状態かなとか分かってきますよね。そこに引っ張られると思い込みが入りすぎてしまいますけれど、何を思い、何を言いたいのか、その手掛かりになります」

 真意を伝えるには機械的に変換すればいいわけではない。そのために割く労力が信頼を得てきた。

 そしてフィギュアスケートの通訳を担うに至ったのは、ある意味、必然でもあった。(続く)

 

平井美樹(ひらいみき) 放送・会議通訳者として国際会議やビジネスの場で活躍。またスポーツでも活躍し2002年サッカー日韓ワールドカップ、2019年ラグビーワールドカップ、2021年に開催された東京オリンピックなどにも携わる。フィギュアスケートでは2007年より通訳として活動している。