文=松原孝臣 写真=積紫乃
異例の「スピード出世」
1年前のシーズンオフと、今年のシーズンオフの様相は大きく異なる。
「たくさんのアイスショーに呼んでいただいたので、ほんとうによい経験ばかりができて、大変光栄に思っています」
渡辺倫果(TOKIOインカラミ/法政大学)は笑顔を見せる。
4月に「スターズ・オン・アイス」の奥州、横浜公演に参加すると、5月には「アイスエクスプロージョン」福岡公演に出演。この先も、6月末から「ドリーム・オン・アイス」、8月には「ワンピース・オン・アイス」が控えている。昨年は「ドリーム・オン・アイス」のみであったのだ。
オフのこの変化は、そのまま昨シーズンを象徴している。3月の世界選手権で、渡辺自身がその歩みを「スピード出世」と表した。
「今までは新人、ぺーぺーだったのが部長あたりまで来ているので、1年半で部長までの出世はなかなかないと思います」
その言葉のとおり、渡辺は一足飛びに、という表現ではおさまらないほど急速に駆け上がった。
初のグランプリシリーズで優勝
口火となったのは昨年9月のチャレンジャーズシリーズ・ロンバルディア杯だった。渡辺はフリーでトリプルアクセルを成功させるなどショート、フリーを通して好演技を披露、優勝を飾る。
「チャレンジャーズシリーズが物語の始まりと言いますか。そこでの優勝がなければそのあとの派遣もありませんでした」
「そのあと」とは、グランプリシリーズ出場が決まったことを指している。
もともと渡辺は同シリーズに出場する予定はなかったが、欠場選手が出たことからNHK杯出場が決まる。その直後にはスケートカナダも決まり、2大会に出場することになった。ロンバルディア杯あればこそだった。
出場する機会を得ると、さらに快進撃が続く。グランプリシリーズデビュー戦となったスケートカナダでショートプログラム6位から逆転で優勝。NHK杯ではショート9位にとどまったがフリーでは3位と巻き返し、最終順位は5位。このフリーで持ち直したことは大きな意味を持つことになった。シリーズ上位6名のみが出られるグランプリファイナル進出を果たすことができたからだ。