文=松原孝臣 写真=積紫乃
『今日のベスト』を尽くせる選手
2022-2023シーズン、中庭健介が指導する選手の中でもとりわけ飛躍と呼べる姿を見せた
中井はジュニアグランプリシリーズに初参戦、2戦目で優勝も飾りジュニアグランプリファイナルに進むと世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した。全日本選手権のフリーでトリプルアクセルを2つ成功させ4位になったことでも脚光を浴びた。
渡辺はグランプリシリーズに初めて参戦し、スケートカナダで初出場初優勝。グランプリファイナルにも進出、さらに初めて世界選手権にも出場した。
中庭は2人を2021-2022シーズンから指導してきた。
「中井さんのよさは負けず嫌いであること。他人に対してもそうですけど、自分に対してそうです。掲げた目標や上手くなりたいという思いに負けたくないんですね。もう1つは目の前のことをこつこつとできること。『今日のベスト』を尽くせる選手です」
だから「昨シーズンの結果は別に驚かない」と言い、こう続ける。
「1年目はお互いの足し算でしたが、2年目になって信頼関係ができてきて、足し算が掛け算になったかもしれません。掛ける数字が1のままなら数字は大きくなりませんが、彼女は彼女で数字を大きくして、僕も勉強して大きくして、それが2年目で起きたことだと思います」
課題も見据える。
「ここから先は、ある意味人間としての成長期に入ります。僕も身長が20センチ伸びたシーズンがありますが、女性は体つきも変わってきますし、どんな人でも一度はある『壁』だと思っています。そうなることを想定してどういう取り組みをするか、僕も準備し始めています」
渡辺についてはこう語る。
「中井さんと同じよさがあって、自分で自分を追い込んで練習できたり、あとは基本、明るいのが特徴かもしれないですね。20歳とまだ若いですけど、いいお姉さん」
そして世界選手権について触れる。フリーの演技を終えた渡辺が、涙を浮かべていた中庭に触れつつ、「『こんなので泣いていたらもたないよ。来年、またこの場所に戻ってくるんだから』と言いました」「(演技前)先生の表情が堅かったので『表堅いよ』と、背中をパーンとしたんです」と語っていた、その涙についてだ。