文=松原孝臣 写真=積紫乃
渡辺倫果、中井亜美を指導
2022-2023シーズンに輝きを見せた選手に、シニアの渡辺倫果、ジュニアの中井亜美がいる。渡辺はグランプリシリーズに初めて参戦し優勝を飾るなどしてグランプリファイナルにも進出、さらに初めて世界選手権にも出場した。中井もジュニアグランプリシリ―ズに初参戦、渡辺同様に優勝も飾りジュニアグランプリファイナルに進み、世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した。
2人に共通するのは同じチームで同じコーチに指導を受けていること。MFフィギュアスケートアカデミーの中庭健介である。現在、41歳になる。
渡辺はしばしば中庭について触れてきたが、とりわけ印象的だったのは世界選手権での話だった。演技を終えた渡辺は中庭が涙を浮かべていたことに触れつつ、言った。
「『こんなので泣いていたらもたないよ。来年、またこの場所に戻ってくるんだから』と言いました」
「(演技前)先生の表情が堅かったので『表堅いよ』と、背中をパーンとしたんです」
と笑った。
そこには、「指導者と選手」からスポーツ界で想起される、いわば上下関係や師弟関係とは無縁な関係がうかがえた。そして指導の内実を想像させた。
2人の飛躍を支えた指導者、中庭健介の考える指導とは何か。まずはその足跡をたどってみたい。
「3つの恩返しをしたい」
福岡のリンクを拠点とし、全日本選手権で3度表彰台に立ち四大陸選手権など国際大会にも出場、4回転ジャンパーとしても知られた中庭は2010-2011シーズンをもって引退。コーチとして歩むことになった。
「引退する4、5年前から漠然と指導者になることを思ってはいました。スケートしかやってこなかったし、スケートの中で僕は何ができるかと考えました。また、ゲームが好きなのですがプレイヤーを操作するゲームではなくて、いわゆるシミュレーションゲームが好きでした。プレイヤーというよりは育てるみたいなものがすごく興味があったという自分の向いている方向性もあって、合致したのが指導者ということだったですね」
選手時代に引き続き「福岡パピオクラブ」でコーチとしてスタートするにあたって誓ったのは「3つの恩返しをしたい」という思いだった。