文=松原孝臣
坂本花織とともに日本初の世界選手権連覇
フィニッシュとともに、氷上にそのまま倒れこんだ。その姿は大会における日々を象徴していた――。
3月25日、世界フィギュアスケート選手権(さいたまスーパーアリーナ)の男子フリーが行われ、宇野昌磨が優勝した。
昨シーズンのこの大会でも優勝している宇野は、今回、女子で優勝した坂本花織とともに、日本初の世界選手権連覇を達成した。
たどり着く過程は、決して簡単ではなかった。
3月21日の公式練習後、宇野は調子が上がっていないことを明かした。
「(昨年11月の)NHK杯前に匹敵するほど、今年一ひどいと思います」
「先週くらいからです。先々週ぐらいまではふつうにできていたんですけれど、先週くらいから、あまりにもひどくなりました」
宇野が指していたのはジャンプだった。特定のどれ、というわけではなく、全体として調子が落ちていったのだという。
その翌日にはアクシデントに見舞われる。ジャンプで転倒し、そのまま氷の上にうずくまる。練習を途中で切り上げたことも見守る人々の心に心配をよぎらせた。
その後、明らかにされたのはもともと痛めていた右足首を着氷時にさらに痛めたということだった。
試合を前に、厳しい状況と向き合わざるを得なかった。それでもショートプログラムではトップに立つ。
迎えたフリー。最初の4回転ループはきれいに成功させる。続く4回転サルコウは回転不足となったが4回転フリップを鮮やかに決めた。
演技は後半に入る。最初のジャンプは単独の4回転トウループに。続く4回転トウループもきれいに跳びきれなかったが、とっさに1回転のトウループをつけてコンビネーションジャンプにする。
後から振り返れば、2位に入ったチャ・ジュンファン(韓国)との点差から見て、大きな意味のある1回転ジャンプだった。あの状態からジャンプをつけることができたのは数々の経験と技術あればこそだった。そして試合への気迫がそこにあった。
フィニッシュするやいなや、宇野は氷上に大の字に伸びた。精魂使い果たしたことがその姿にあった。
得点は196・51点でフリーでもトップ、合計301・14点とグランプリファイナルに続き300点台に乗せた。今シーズン、300点台を出したのは宇野ただ一人だけだった。
「ほんとうに今これ以上できない演技だったと思いますし、ほんとうにどのジャンプもすごい危ないジャンプが多かったので。それでもしっかり成績を残せたこともうれしいです」
「演技直後はけっこうほっとしたというか、久々に練習以上を出さなければいけないという気持ちだったので地に足つかない演技ではありましたけれども、ほっとしたという気持ちです」
穏やかな笑顔と、安堵があった。
思えばこれまでも、負傷した直後の大会などで周囲が危惧する中、それを跳ね返す演技を何度も見せてきた。今回もまたそれは体現された。それらの事実は宇野のスケーターとしての一面を雄弁に物語っている。