自分は何者なのか、何者でありたいのか

2023年3月26日、世界フィギュアスケート選手権エキシビジョンでの宇野 写真=Raniero Corbelletti/アフロ

 世界選手権は終わった。シーズンを振り返れば、出場したすべての大会を優勝という成績で終えることができた。世界選手権で「日本初」も成し遂げた。昨シーズンから継続してきたフリーの「4回転ジャンプを4種類計5本」の挑戦を貫いてきたことが象徴するように、真摯な取り組みの成果にほかならない。

 数々の結果を残したシーズンの締めくくりである世界選手権を終えた直後、でも宇野が語ったのは充足ではなかった。

「僕がスケートをやってきた上で求めているのは、結果以上に自分が自分の演技を見返したときにいいなって思える演技です。この2年間、正直できているかって聞かれたら、ジャンプはほんとうに上手くなりましたしいいと思うんですけど、スケーターとしてどうだと考えるとあまりうんとは思えないので」

 試合の翌日、エキシビションを控えて、あらためて説明する。

「世界選手権の前に、(優勝した)グランプリファイナルの映像を、ジャンプを見る目的で観ました。ほんとうにジャンプだけだなって思ってしまって。『あれ? なんかもう1回観たいとは思わないな』っていう演技だったというのが正直な感想です」

 だから、次へ進みたいと思う。

「小さい頃からやっぱり高橋大輔選手に憧れて、そんな選手になりたいって思っていました。いつしか、結果を出してトップで戦いたい気持ちが芽生えてジャンプを頑張るようになって。すごいいいことなんですけど、自分のやりたいことがひとつ成し遂げられたからこそ、僕がもうひとつ成し遂げたかった表現者として、自分の魅力は何か、自信を持って言えるスケーターになりたいと思っています」

 宇野の自己評価は厳しい。

 はたからはジャンプのレベルを上げたことにとどまらず、バリエーション豊かな曲のプログラムに臨みながら表現にも幅と深みを養ってきたのが演技にうかがえる。

 フリーの『G線上のアリア』もそうだ。ジャンプとジャンプの間の動作やスケーティングはたしかな進化のあとを伝え、最後のジャンプを降りたあとのステップもまた豊かな情感がそこにあった。演技の身近な時間には膨大な時間が込められている。

 それでもまだ、宇野の目指す場所は遠くにある。それはスケーターとして、さらに高みを目指していく意思の表れでもある。今までとかわることなく、より成長を志す姿勢がそこにあった。

 真摯に取り組んだ結果として成し遂げたからこそ、新たに向かうべきステージが生まれた。

 自分は何者なのか。何者でありたいのか。

 自ら投げかけた問いの答えを探す旅へ、宇野昌磨は歩み出そうとしている。