文=松原孝臣
団体戦と個人戦で銅メダルを獲得
変わるものと、変わらぬものと。
北京オリンピックの2つの試合を終えたフィギュアスケーター宇野昌磨の表情と言葉は、その両面を思わせた。
男子ショートプログラムに出場した団体戦では銅メダル、シングルでは平昌大会の銀メダルに続く2大会連続の表彰台となる銅メダルを獲得。2つの試合を終えて、2大会連続でのメダルをどう捉えているのか、質問を受けるとひと呼吸置いて答えた。
「4年間を経て、いろいろなことがあり、再びこの場所に立てていることにうれしく思います。今日の演技がどうであれ、この順位というのはこの4年間の成果だと思うので、素直にうれしいです」
万全な状態で臨んだ大会ではなかった。
昨年末の全日本選手権の4日前、練習で4回転フリップを跳んで着氷した際、右足首を痛めた。それは容易に治らなかった。北京入り直前まで日々、治療に努めた。北京入り後の練習で「大丈夫です」としたものの、完全に回復した状態にあるとは言えなかった。
その中で団体戦を経て、迎えたのがシングルだった。ショートプログラムで自己ベストを更新し3位で終え、フリーを迎える。曲は『ボレロ』。
最初の4回転ループを鮮やかに決めると、続く4回転サルコウも(4分の1回転不足と判定されたが)着氷。そのあとの4回転フリップでは転倒する。それでも崩れることはなかった。続くトリプルアクセルを成功させ、1つ1つの要素に取り組んでいく。後半、3連続ジャンプの最後がトリプルフリップではなく1回転になったがスピン、ステップを情感豊かに伝えてフィニッシュ。銅メダルという結果につなげた。
そこには宇野の姿勢が明確に表れていた。
転倒した4回転フリップは、グランプリシリーズでは後半に配していたが、全日本選手権に続き北京でも前半に跳んだ。右足首の影響があっただろう。ただ、右足首を考慮するなら全体をまとめる、手堅くいく選択肢も考え得る。でも宇野が選んだのは、今シーズン掲げてきたフリーでの「4回転ジャンプを5本」を北京でも貫くことだった。