どの試合も特別で、オリンピックも1つの試合
「僕は挑む、挑戦する立場でいたいと思います」
シーズンの本格的な開幕を前にしての抱負を最後まで大切にした証でもあった。
確信をもって「挑む」姿勢を通したのには、宇野の言葉の通り、この4年間の歩みがつながっている。メダリストとなった平昌大会のあと、周囲の期待に応えたいという思いと責任感を強く意識し、結果を残したいと思い、ただ願ったようにはいかなかった。長年親しんだクラブを離れる決断をして、不安定な状況にも置かれた。苦しむ時間も少なくなかった。
その中で展望を開く契機となったのが、現在コーチを務めるステファン・ランビエール氏の存在だった。氏をキスアンドクライに迎えた2019年の全日本選手権で4連覇を達成。心からの笑顔が変化を象徴していた。
2020-2021シーズンの世界選手権での言葉もまた、内面を表していた。
「氷の上での練習内容は、今までとそれほど変わっていません。変わったのは氷以外、スケートを楽しくやらせてもらえるようになったというか。よりスケートに楽しさを感じられるようになりました」
スケートを楽しむ大切さを再発見した宇野がもう1つ確認したのが、「どこまでも成長したい」という意識だった。2021年世界国別対抗戦での演技を悔い、だからこそ、「もっと上手になりたい」と思った。
こうして2つの拠って立つ柱とともに、4回転ジャンプを5本入れるというチャレンジに臨んだ成果が、銅メダルであった。
取材エリアで、1つ1つの質問に丁寧に答える中に、印象的な言葉があった。
2度目のオリンピックについての感想を尋ねられての答えだ。
「やはり、根本的なものは変わらず、僕にとってはどの試合も特別。このオリンピックという舞台は、他の試合とは環境が違うものの、やっぱり1つの試合だと思います。僕が今考えているということは、次の世界選手権へ向けて、帰って一刻も早く練習したいということです。僕はもっと絶対成長できる、もっともっとうまくなりたいって思っています」
平昌大会を終えたとき、宇野は「オリンピックに最後まで特別なものは感じなかったです」と語った。自身が成長していく過程にある1つの大会であると言った。
北京で語ったのも同じ趣旨だった。オリンピックだから他の試合と別なわけではなく、言葉の全体からすれば、成長の場として捉えている。
4年の経験は宇野の成長を促しただろうし、得た糧も大きかった。それは4年間での変化だと言える。でも根本は4年前も今も変わらない。常に成長を志し、その中にあったオリンピックだから、悔いはない––でも、心残りもあると言う。
「この『ボレロ』が、ステファンが満足する、よかったといっていただけるような演技をできなかったことです」
スケーターとして、いや、人として信頼してくれるコーチが力を注いで振り付けてくれたプログラムだ。その完成形を示すことが恩返しになる。
そのための舞台が、3月21日にフランス・モンペリエで開幕する世界選手権である。