文=松原孝臣
グランプリファイナルで初優勝
年が明けて1月4日、アイスショー「名古屋フィギュアスケートフェスティバル」が行われた。
出演した1人に宇野昌磨がいた。2019-2020、2020-2021と2シーズンにわたってショートプログラムで用いた『グレート・スピリット』を披露するなど元気な姿を見せた宇野は、場内アナウンスを通じてメッセージを発した。
「昨年は自分にとってすごく大きな年となりました。これからも自分にできることをせいいっぱい、やりたいと思います」
昨シーズンにあたる2022年2月の北京オリンピックで2大会連続の表彰台となる銅メダル。3月の世界選手権では初優勝を飾った。
今シーズンになってからはここまでに出場したすべての大会で優勝を果たしている。グランプリファイナルでは初めて表彰台の真ん中に立った。
その成績もさることながら、折々に見せる姿勢や言葉は、一段高い次元に上がったことを示していた。
例えば、昨年11月のNHK杯。
大会が幕を開けてからの足どりは決して順調とは言えなかった。象徴的だったのは公式練習だ。いつになく納得のいかないような表情を見せた。そこに内面がはっきり表れていた。
「ジャンプをやっても、毎日違う跳び方になってしまって、反映したい技術がトライしてもできませんでした」
「思い通りにいかない苛立ち、もどかしさが公式練習に出ていました」
その姿に、コーチのステファン・ランビエルが練習後、「話をしよう」と会場内のレストランに誘った。そこで言葉をおくった。
「完璧を求めすぎないように。完璧というのは一つひとつやった先に待っているもので、目指すものではないよ」
そこから気持ちを立て直していった。
さらに問題に直面することにもなった。それはエッジの問題だった。公式練習、ショートの日と、エッジの位置がうまく決まらず、何度も変えて大会中、試行錯誤していた。
フリーを迎えても解決には至らなかった。演技直前の6分間練習でジャンプを跳んだとき、エッジの位置に違和感を覚えた。そこで宇野が採ったのは、自ら位置を調整することだった。
「何日もかけて調整していくところですが」、もう演技は迫っていてその時間はない。滑走までの短い時間で合わせて臨むことになった。
ふつうに考えれば大きな困難に直面したと言ってよい事態だ。それに対して慌てることなく対処することができたのは、宇野がこれまでに重ねてきたキャリアと、そこで得てきた経験あればこそだった。
師走の全日本選手権も宇野の現在を思わせた。