文=松原孝臣
人生初のグランプリシリーズで優勝
昨シーズンを過ごす中で、今シーズンこれほどの変化を遂げていると想像していただろうか。
渡辺倫果は駆け足に階段を上り、今、初めての大舞台を目の前にしている。
現在二十歳の渡辺は、昨シーズン、全日本選手権でトリプルアクセルを成功させ6位。それまでに3度出場して最高で18位だった成績を大きく上回る結果を残した。
世界ジュニア選手権の代表にも選ばれ、10位で大会を終えている。
迎えた今シーズンは、昨シーズンに得た収穫をたしかなものとして次につなげていくための1年だった。派遣されることになっていた国際大会などで成績をあげて、ジュニアの頃も含めて出場したことはなかったグランプリシリーズに出るための足がかりにしたいと考えていた。
その機会は、ふいに訪れた。
9月中旬に行われたロンバルディア杯に出場した渡辺はショートプログラム2位でスタート、迎えたフリーで好演技を見せる。冒頭、トリプルアクセルを成功させる。国際大会では初めてだった。その後も、小さなミスはあったがコンビネーションジャンプをすべて成功させるなどして優勝を飾る。
それが流れを変えた。
北京オリンピック代表の樋口新葉が今シーズン休養することを発表、それはグランプリシリーズを欠場することも意味した。そこで渡辺にまわってきたのがグランプリシリーズ第5戦、11月のNHK杯出場だった。
「私でいいのかなと思うところはあるのですけれど、9年前に外から見ていた景色を実際に立って見られることを誇りに、ベストが出せるよう頑張っていきたいなと思っています」
「9年前」とはノービス時代にNHK杯のエキシビションに出演したことを表していた。今度は試合に参加する身としての舞台を、念願のグランプリシリーズ出場を楽しみにしているのが笑顔の中に見て取れた。
その会見が終わってつかの間、第2戦のスケートカナダへの出場も決定する。
迎えた人生初のグランプリシリーズ、10月末のスケートカナダで渡辺は世界をあっと言わせる。ショートプログラム6位で迎えたフリーでロンバルディア杯に続きトリプルアクセルを成功させるなどして、逆転で優勝したのだ。
NHK杯ではショートプログラム9位と出遅れたがフリーで巻き返し5位。結果、グランプリファイナル進出を決めた。
迎えたイタリア・トリノのグランプリファイナルでも、すべてが納得のいく演技ではなかったが表彰台にあと一歩と迫る4位。
昨年末の全日本選手権では重圧も感じつつ臨んだ影響などからショート18位と出遅れ、フリーで巻き返したものの12位に終わったが、グランプリシリーズでの活躍などで世界選手権代表に選出。振り返れば、破竹の勢いと言ってよいシーズンを過ごしてきた。
その陰には、困難と向き合い、それでも進んできた時間があった。