文=松原孝臣
2022-2023シーズンのテーマは「スタート」
シーズンのテーマを端的に表した言葉は、今、包まれている空気と、そして変わることのないありようを示しているようだった。
10月9日、フィギュアスケートのグランプリシリーズ開幕を前に、出場を予定している選手のうち何人かが出席しての合同記者会見が開かれた。
始まって間もなく、選手たちはグランプリシリーズについてのテーマを尋ねられた。出席した1人、宇野昌磨が選んだのは「スタート」であった。
「先シーズン、自分にとってもすごく満足できるシーズンになったと思います。自分が満足できるシーズンを送ったからこそ、もう一度、自分がジュニアからシニアに上がったときのような気持ちで成長というものにフォーカスをあてながらスタートしていきたいという意味を込めました」
「すごく満足できた」。そう語るように、昨シーズンは充実した1年を過ごした。北京オリンピックでは平昌オリンピックに続いての表彰台となる銅メダルを獲得し、世界選手権では初優勝を遂げ、シーズンを締めくくったのだから。
成績ばかりが満足できた理由ではない。
フリーで4回転ジャンプ5本に挑むことを目標に掲げ、シーズンを通じて貫くことができた。しかも順風満帆というわけではなかった。全日本選手権直前に負傷し、その影響はオリンピックまで続いたからだ。それでも4回転ジャンプを減らすことはなかった。守勢には走らず、怪我の影響を考慮しつつも攻める姿勢を貫いた。そう、挑戦することをやめなかったからこそ、目標を達成できたからこそ、満足することができた。
満足できたシーズンが終わり、宇野は新たなシーズンに向き合ってきた。
世界選手権後、「スターズ・オン・アイス」に出演したのを皮切りに多くのアイスショーに参加。
その中の1つ、4月下旬に始まった「プリンスアイスワールド」では早くも新たなショートプログラム『Gravity』を披露している。オリンピックと世界選手権を終えて早々、この時期に新プログラムを滑ることができたところに、たゆまぬ心を感じさせた。
7月に行なわれた「THE ICE」ではフリーの新プログラム『G線上のアリア』を披露。シーズンの開幕へと順調な準備を示していった。
それらのアイスショーやショーの後の取材の場で見せていたのは、一貫した姿勢だった。象徴的なのは、6月の行事と7月の「ドリーム・オン・アイス」で語った、同じ趣旨の言葉だ。
「僕もまだまだ気持ちは若いつもりでいますし、負けじと成長していく姿、まだ成長できる余地があると思っているので、そういうところを皆さんに見せられたらと思います」
これはドリーム・オン・アイスのときだが、6月にもやはり、「成長できる余地があると思っている」と語っている。