「数年、揺れ動いていた」フィギュアコーチ樋口美穂子が独立した理由(1)
「人のために頑張る」宇野昌磨の元コーチ・樋口美穂子が語る成長の軌跡(2)

文=松原孝臣 写真=積紫乃

大切なのは選手1人1人を見極めること

 長年、コーチを務めたクラブ、グランプリ東海を離れ、独立する決断をした樋口美穂子は、新たに立ち上げるクラブのあり方について、従来の自身とは異なる方向を模索する。

 樋口は、担う範囲の広さで知られてきた。技術面をはじめスケートそのものを指導するコーチとしての役割に加え、スケート靴の研磨も手がけてきたし、さらには振付師としての役割も果たしてきた。

「選手のときから振り付けをしていました。(山田)満知子先生が伊藤みどりちゃんで忙しくていなかったとき、後輩の面倒を見ていた延長で振り付けをするようになって」

 これまでに手がけた数は「分からない」と笑う。ただ、2008年時点での新聞記事では「1000を超える」と記されている。年に70ほどとも言われることを考えればもう2000前後に達していても不思議はない。本筋からややそれるが、振り付けについて聞いてみたい。

「曲を聴いて、その子をイメージできるか。『あ、これってこの子に合いそうだ』『今までと違うイメージでできるかな』と想像したりします」

 大切にしているのは、1人1人を見極めた上で振り付けることだと言う。

「選手はそれぞれに違うじゃないですか。年齢が1年上がっても違う。成長するし、思春期だと一気に大人になったりする。あるいは中身はまだ成長していなかったりもする。もちろん、技術もかわります。ずっと一緒にいると変化になかなか気づかなかったりするので、よく観察するようにしていました。その上で曲を選んでいきます。ときにはちょっとハードルを高くして、ここまで上がってきてほしいという目的で選ぶこともあります」

 振り付けていく上で、動作や表現のアドバイスのために大切なのは、いかに自分の中にアイデアがあるかだと語る。

「そのために、なるべくいいものを観たり、聴いたりすることは意識しています。例えば歌手の人が歌っている姿を観ていると、バックの模様などの演出もあるじゃないですか。この曲で、こういうイメージでされるのかとそこから受け取るものもありますし、そういう蓄積されたものから出てきます」

 ただ、今後についてはこう考えている。

「いい振付師さんもいっぱいいますし、全部自分でやろうとは思っていません。新しいクラブでは、みんなで力を合わせていいものを、と思っています。ジャンプが高難度になってきていることが象徴するようにフィギュアスケートが変化している中、各スペシャリストとともにクラブを作っていく必要があると思っています。そのトータルプロデュースができれば、と考えています」

 新しいクラブの名前は、「LYSフィギュアスケートクラブ」とした。LYSは、「Let Yourself Shine」の頭文字から来ている。

「1人1人を輝かせたい、大切にしていきたい、という思いですね。1人1人にそれぞれの目標があり、輝き方があると思います。その力になれれば」